第62話 モニカが得たエクストラスキル

「さて、先ずは前哨戦だ。エリー、良いか?」

「任せてっ! ≪サンダーストーム≫!」


 シェイリーの背に乗ったエリーの杖から、激しい雷が生み出され、黒い魔物たちを貫いていく。


「先ずは三体だな。では、次は我がいこう……≪樹氷≫」


 シェイリーが何かのスキルを使うと、前に居た魔物たちが凍り付き、地面に落下していく。


「ふむ。無事、壁の外に落ちて砕けたな。……万が一、家の上に落ちたら、アレックスからどんなお仕置きを受けるのかと、わくわ……こほん。ドキドキしたぞ」

「いや、そう思うなら、他の魔法にしてくれよっ」

「というかシェイリーさんは、わくわくって言いかけませんでしたっ!?」


 エリーと共にシェイリーへ指摘していると、今度は魔物たちが速度を上げて向かって来た。


「我にお仕置きはしてくれぬのか? ……っと、ふざけている場合ではないな。少し、激しく飛ぶぞ!」

「アレックス! 魔法で攻撃するから、私を支えてっ!」

「任せろっ!」


 左手でシェイリーにしがみ付きつつ、右手でしっかりとエリーの脚を抱きかかえる。

 シェイリーが魔物の攻撃を避けながら、右へ左へと飛び、そんな状態にも関わらず、エリーが攻撃魔法で魔物を減らして行く。

 何体かは、壁の内側に落ちてしまったが、見た所ではモニカがきっちり止めを刺してくれているようだ。

 そして気付いた時には、一番後ろに居た黒い悪魔――ベルゼブルだけとなっていた。


「セイリュウ!? フウインサレテイタハズ!」

「ふっ……我の事を知っておるか。だが……この者の事は知っておるかな?」


 至近距離でベルゼブルとシェイリーが顔を突き合わせている所へ、


「≪ホーリー・クロス≫っ!」


 シェイリーの背から跳び、攻撃スキルを放つ。


「ナッ!? ……クッ!」


 ベルゼブルが慌てて回避しようとするが、片方の翼を半ばから斬り落とした。

 バランスを崩したベルゼブルが、くるくると回転しながら、地面に落ちて行く。

 ……もちろん、俺も一緒だが、固い地面に落下する前に、空中でシェイリーに咥えられる。


「すまん。助かる」

「我としては、この姿ではなく、人間の姿でアレックスのを全てを咥えられるようになりたいのだがな」

「の、ノーコメントで」

「一先ず、奴はもう空を飛べぬであろう。我はそろそろ時間切れだ。後は任せたぞ」


 エリーと共に地面へ下ろしてもらうと、


「アレックス。実は奴の魔法を、未然に十二発防いでおる。だから、後で十二回分の子種を頼むぞ。なに、アレックスなら余裕であろう」


 とんでもない言葉と共にシェイリーが戻っていった。

 と、とりあえず、シェイリーにかなり守ってもらっていたようなので、後で礼を言いに行く必要がありそうだ。


「ご主人様、大丈夫ですかっ!? 漏れていませんかっ!?」

「何が漏れるんだ?」

「いえ、大丈夫でしたら、気にしないで下さい。あと、十二回出しても足りないと思いますので、是非私にもおこぼれを」

「何の話だよっ! というか、行くぞっ! 奴に魔法を使わせるなっ!」


 大きな音を立て、ベルゼブルが地面に落ちる。

 砂埃の中に見える大きな影に向かって、三人で攻撃スキルを連発していると、


「ご、ご主人様っ! た、大変ですっ!」


 突然モニカが大きな声で叫びだす。


「どうしたんだっ!?」

「い、いえ……不思議な声が聞こえ、悪魔を倒したから、エクストラスキルを授けると……」

「おぉっ! 今回、モニカがトドメを刺したからか? 一先ず、攻撃は終了だ。ベルゼブルは倒したはずだからな」


 視界が悪い中、エリーに攻撃魔法を中止させると、暫くして砂埃が晴れていき……シャドウ・ウルフと同じ様に、倒れたベルゼブルの身体が掻き消えていった。

 ベルゼブルを食べる事が出来ていれば、何かしらのスキルを得られそうだったが、倒した後に消えてしまうタイプなのは残念だ。

 一先ず落ち着いたところで、


「モニカ。不思議な声がエクストラスキルの説明をしてくれたと思うが、どんなスキルをもらったんだ?」

「はい。何でも、『聖水生成』スキルだそうです」

「えっ!? 何それ……いいな。何だか、格好良い。勇者に並ぶレアなジョブの、聖女みたいじゃない」


 モニカからエクストラスキルの話を聞き、エリーが羨ましそうに口を尖らせる。


「聖水か……武器や防具の強化に、高位の神聖魔法の媒体に使ったり出来るはずだ。俺のエクストラスキルのように、使用条件があったりするのか?」

「そ、それが……私の体内で生成されるらしく、聖水の出し方が、尿か愛え……」

「終了っ! そのスキルは無かった事にしよう!」

「えぇっ!? ご、ご主人様っ! せっかくなので、使ってくださいませっ!」


 せっかく得たエクストラスキルなのだが、使用するのは、かなり難しいようだ。


「……前言撤回。やっぱり私、そのスキルは要らないかな」

「せ、せめて効果の程を……確認くらいはしてくださいませっ!」

「無理だーっ!」


 悪魔は無事に倒せたが、困ったスキルを得てしまった。

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