第398話 便利な生活魔法

「アレックス。馬車が来たポン」

「わかった。テレーゼも、すまない。助かったよ」

「えっ!? もう終わりなのーっ!? また後で続きをしてよねー」


 目的の馬車が到着したので、ようやく分身を解除する。

 それから少しして、馬車が停留所へ着き、


「エリラドの街に着いたよ……って、なんじゃこりゃぁぁぁっ!? 一体、何があったんだっ!?」


 御者の方が乗客に声を掛けようと振り返り、御者席と客席の間にある小窓を開けたところで絶叫した。


「すまない。この子供たちと、グッタリしている女性たちは、全員俺たちの仲間なんだ。馬車が汚れているのは……弁償させてもらおう」

「弁償って言っても、すぐに次の村へ行かないとオラが責任を取らされちまうよ」

「す、少しだけ待ってくれ。何か考える」


 弁償はするにしても、この御者の方や、馬車を待っている人に迷惑を掛ける訳にはいかないので、何とか出来ないかと考える。

 だが、俺が分身を消したのを、合流した合図だと思ったのか、カスミも分身を消してしまい、マミとジュリ、テレーゼの使えるスキルや魔法で、この汚れ捲った馬車の中を綺麗にしなければならない。

 まず、ジュリは魔法が使えないし、スキルも俺と同じく防御系のスキルのみだ。

 マミは魔物を呼ぶスキルなので、ここで使うと騒ぎを大きくしてしまうかもしれない。

 テレーゼは夢魔族のスキルが使えるが……嫌な予感がするからやめておこう。


 ……という訳で、俺が使える魔法やスキルで何とかしなければならないのだが、思い付くのは水魔法で洗浄するくらいだ。

 とはいえ、俺が使える水魔法は攻撃魔法だから、この馬車を痛めてしまわないか心配……いや、待て。

 あの魔法なら、いけるんじゃないか?


「≪アクア・バブル≫」


 馬車の中で泡魔法を使うと、無数の小さな泡が汚れを包み込み、そのまま外へ流れ出ていく。

 うん。メイドさんたちから貰ったスキルだからか、攻撃魔法というより生活魔法というか、清掃魔法だな。


「おぉ、兄さん。凄いね。出発前より綺麗になったよ! さっきまでしていた変な匂いも消えたしね。これなら弁償なんてしなくても良いよ」

「いや、そうはいかない。とりあえず、これで足りるだろうか」

「ん……に、兄さん! これだと、馬が一頭買えちまうよ! 本当に大丈夫だから、気にしないでくれ」

「そ、そうか……すまない」

「こんなに綺麗にしてもらっただけで十分だよ。……って、そういや兄さんは、カレラドの街から馬車に乗っていなかったか? どうしてエリラドの街で出迎える側に……」

「た、他人の空似ではないか? では、そういう事で」


 一先ず子供たちを孤児院へ連れて行く事にしたのだが、その前にやるべき事がある。


「≪リフレッシュ≫……この度は、本当にすまない。分身……というか、俺が貴女たちに大変な事をしてしまった」


 子供たちと一緒に乗っていた三人の女性たちが気を失っていたので、まずは治癒魔法で目覚めさせ、深々と頭を下げると、


「……お兄さーんっ! しゅごかったの! ねぇ、もう一度しよっ!」

「私、もうお兄さん無しでは生きられない身体になってしまいました。責任を取って……結婚してください!」

「何も知らない無垢な子供たちに見られながらって、あんなにも……もう一度、もう一度お願いっ!」


 三人の女性に抱きつかれてしまった。

 ……一人、ちょっとヤバい女性が居たが、それはそれとして責任は取るべきだろう。

 とりあえず、話し合いと子供たちをこのままにしておけないので、全員で孤児院へ移動し、レナとツキに子供たちをお願いする。


「お父さん。この国、ヤバいなぁ。またこんなに増えたんか」

「父上。子供たちは責任を持って私が守ります。ですので、先に向こうの石の小屋でケイト殿たちを何とかしてあげてください」


 ツキの言う通り、孤児院に居たケイトの俺を見る目がおかしく、ジスレーヌも……って、マミとジュリまで様子がおかしい。


「あんなに凄い光景を見せられたら、我慢出来ないポン! 早くするポン!」


 おい、マミ! そういう事よりも、先にこちらの女性たちと話が先……


「あ、私たちも混ぜてくださいねー!」

「これは結婚してくれるっていう事ですよね? 大勢居る妻の一人でも構わないから、もっと……」

「大人数でするってイイっ! 早く、早くっ!」


 って、三人の女性たちも参加するのかよっ!

 いや、俺は謝罪を……謝罪おぉぉぉっ!

 しかしながら、全て許すからもっとして欲しいと言われ……気付いた時には全員気を失っていた。

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