挿話7 勘違い男に激怒するアークウィザードのエリー

「え、えっと、やっぱり男の人は黒とか赤とかが好きなのかな?」

「んー、変に気合を入れすぎるよりも、エリーちゃんなら、オーソドックスな白の方が良いんじゃないかしら? ただ、白でも可愛いのが良いと思うけど」

「じゃ、じゃあ……これ、かな」


 ステラに付き合ってもらい、食料の買い出しと称して、服屋さんへやって来た。

 もちろんアレックスの所へ行く為の準備で、向こうはお店が無い為、着替え――特に下着を多めに買いに来ている。

 とはいえ、ローランドが変に思わないようにする為、実際に食料も買って帰るけど。


「ステラ、ありがと。じゃあ、私は買った衣類をタバサさんに預けてから宿に戻るね」

「分かったわ。衣類はこれで良いとして、あと残っているのは……調理器具とか?」

「うん。美味しいご飯でアレックスの心を鷲掴みにする為、食事関係の物を揃え次第、向こうに行こうかなって」

「そっか。流石に今からだと時間が遅すぎて怪しまれるから、明日か明後日くらいには、アレックスの所へ行くのね」


 ステラの言葉に大きく頷き、先ずはギルドへ。

 食料はステラが持って帰ってくれたので、私はこの衣類をタバサさんに……あ、居た!


「タバサさん。すみません、この荷物を……」

「エリーちゃん! 丁度良い所に! ちょっと来て!」


 何故か、少し怒った様子のタバサさんに連れられ、ギルドの小部屋に入ると、


「エリーちゃん。さっきアレックスさんと話したんだけど……良い話と悪い話。二つ伝えたい事があるの」


 凄い勢いで迫られる。


「な、何だか怖いね。じゃ、じゃあ、良い話から……」

「良い話は……アレックスさんの所へ、エリーちゃんが行きたがっているって伝えたら、凄く嬉しいって言っていたわよ」

「ホントっ!? えへへ……じゃあ、私アレックスの所へ行きますっ! そして、タバサさんが考えてくれた通り、美味しい料理でアレックスから結婚を申し込まれちゃいますね! えっと、結婚式にはタバサさんもお呼びしますので、新居へ遊びに来ていただければ……」

「え、エリーちゃん! エリーちゃんってば! アレックスさんの所へ行くのは良いけど、新居は流石に気が早過ぎるわよっ!」

「あはは、そうだね。新居の前に……新婚旅行かな?」

「それも違う……って、結婚の話は一旦置いておいて。そうじゃなくて、悪い話の方よ」


 そうだった。

 もぉー。アレックスが、私と二人っきりで暮らせるようになると凄く嬉しい……なんて言うから、つい舞い上がっちゃったよ。

 自然とニヤけてしまう緩い頬を何とか引き締め、タバサさんの悪い話に構えていると、


「アレックスさんは、エリーちゃんとローランドさんが恋人同士だと思っているの。だから、自分の元へエリーちゃんが来ると、問題になる……って懸念しているわ」


 よく分からない事を言ってきた。

 私とローランドが恋人同士? なんで? ただの幼馴染だよ? そんな風にローランドを見た事なんて、一度も無いんだけど。


「あの、タバサさん。意味が分からないんですけど、どうしてアレックスは私とローランドが恋人だなんて思っているんですか?」

「ローランドさんがアレックスさんに、そう言ったんですって」

「えっ!? どうして!? 訳が分からないよっ!」

「……ここからは私の想像だけど、おそらくアレックスさんもエリーちゃんの事が好きだったのよ。それなのに、ローランドさんから言われた嘘を信じてしまい、大好きなエリーちゃんを取られたと思ったアレックスさんは、失意と傷心にかられ、パーティを抜けちゃったのよ!」

「じゃあ、元々私とアレックスは、両想いだったの!? もぉぉぉっ! ローランドっ!」


 タバサさんに大量の衣類を預けると、急いで宿へ戻り、ローランドの部屋へ。


「ローランドっ! どういう事なのよっ!」

「エリー? 突然、どうしたんだ?」

「どうしたも、こうしたも無いわよっ! ローランドと私がいつ恋人になったの!? どうしてそんな嘘をアレックスに伝えたのよっ!」

「エリー、一体何の話だ? 一度落ち着こうじゃないか」

「タバサさんから聞いたのよっ! アレックスがパーティから抜けた本当の理由をっ!」


 アレックスがパーティを抜けたのは、魔物を倒せないからだってローランドは言ったけど、きっとそれも嘘。

 ローランドが意味不明な嘘を吐いていなければ、今頃私はアレックスといちゃいちゃラブラブしていたはずなのにっ!


「アレックスがパーティを抜けた本当の理由? それは、前に言った通り活躍出来ていないからだ。それに、俺とエリーは恋人同士だろ?」

「何を言っているの!? どうして私とローランドが恋人なのよっ!」

「幼い頃からいつも一緒に居るし、手を繋いで居たじゃないか」

「何歳の頃の話よっ! 第一そんな事で恋人なら、アレックスも同じでしょっ! それに子供の頃の話なら、アレックスの方が一緒にお風呂へ入ったり、同じベッドで寝たりしてるわよっ!」

「なん……だと!? 君は俺という者がありながら……いや、だけど今は不問にしよう。俺は心が広いからな」

「そもそも前提がおかし過ぎるのよっ! もうヤダっ! 私、今すぐこのパーティを抜けるっ!」


 本当はもう少し準備したい物があったけど、今日この瞬間に、私はパーティを抜ける事にした。

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