第373話 喜ぶメイリン
翌朝。いつものようにフィーネたちに起こされると、ティナが部屋の入口で倒れていた事に気付き、すぐにティナの部屋へ運ぶ。
「フィーネ。ティナに気付いてすぐに眠らせたのは良い判断だが、一言伝えて欲しかったな」
「すみません。アレックス様のが凄くて、夢中になっちゃいましたー」
ティナが床の上で一晩過ごしてしまった事を申し訳なく思いながら、ベッドへ寝かせる。
風邪を引いたりはしていなさそうだが、硬い床の上で一晩眠っていたのだ。
あとでイネスに頼んで、ティナにマッサージをしてもらおう。
それからフィーネたちと風呂へ行き、身体を綺麗にして衣服を整えると、皆を起こす前に家へ戻る。
昨日リビングでやらかしてしまったので、先にこっちを片付けようと思ったのだが……匂いは少し残っているものの、床に落ちていたアレが綺麗になくなっていた。
何故なのかと考えていたら、
「あれー? おはよーなのニャー。朝ごはんを貰いに来たのに、皆が居ないのニャー。ご飯が欲しいのニャー」
ムギが俺ではなくソフィの所へ。
まぁ普段からムギとは触れ合いがすくないもんな。
一方でソフィは、ムギが獣人になる前からエサをあげていたらしいし、懐かれているのも当然か。
別に悔しい訳ではないが、少し負けた気分になってしまうのは何故だろうか。
一先ず簡単な食事を作ってムギに出してあげると、嬉しそうに食べてくれた。
「ありがとうニャー。白いのを沢山舐めたから、空腹ではないけど、やっぱりちゃんとしたご飯は食べたいのニャー」
「……ん? 白いのって? ボルシチも居ないし、ミルクは出していないぞ?」
「違うのニャー。毎晩お風呂の床に散乱している白いものの事ニャー。昨日は何故かお風呂ではなく、この部屋に沢山あったけど、いつも通りムギと鳥さんたちとでいただいたニャー」
……って、いつも終わった後のアレはムギが片付けてくれていたのか!
いや、ムギ自身も舐めたり、面倒を見ている鳥たちにエサとして与えているようだが。
「えっと、ムギはあの白いのが何か知っているのか?」
「勿論ニャー。けどムギは子供だから、ミオ様と違って、アレは魔力を多く含んだ食べ物としか思ってないニャー」
床に落ちたアレをムギが……う、うーん。鳥たちのエサにするなら、ギリギリ……アリなのか?
ただボルシチの例があるので、あまり勧められないのだが、一部の鳥はエサにアレがないと怒るらしい。
し、仕方ないのか。
それから西の宿へ戻って皆と朝食を済ませた後、ネーヴと共にウラヤンカダの村へ戻ろうとしたのだが、メイリンに呼び止められた。
「旦那様。少しだけお待ちください。お伝えしたい事があるのです」
「どうしたんだ?」
「隣の部屋で二人っ切りでお話しさせてください」
メイリンが神妙な面持ちなので、ネーヴに待ってもらって適当な部屋へ入ると、いきなりメイリンが抱きついてきた。
「メイリン?」
「あ、あのですねっ! わ、妾は……妾はついに、旦那様の御子を授かったのです!」
「おぉっ! メイリン……そうか。良かったな」
「はい。これで、黒の一族を復活させる新たな一歩となりました。出来れば旦那様との御子を、あと十人くらいは授かりたいので、これからも是非お願い致します」
「あ、あぁ……俺はともかく、メイリンが無理しないようにな」
それから昨日考えた、妊婦たちをこの西の宿へ住まわせる話をして、ステラにもこっちで暮らしてもらう事に。
エリー、ユーディット、ボルシチ、メイリンの四人に妊娠している事がわかったのだが、
「旦那様ー。あのねー……まだ居るよー。これ以上は、私からは言えないけど」
ユーディット曰く、まだ妊娠している者が居るそうだ。
これは、父親である俺が気付かないといけないのかもしれないな。
もっと女性たちをよく見ないといけないな……と思った所で、
「だ、旦那様! カスミ殿とサンゴから連絡があり、何人か妾の子たちを連れて、出来るだけ早く村へ戻ってもらいたいとの事です」
「ふむ……という事は、モニカの帰還スキルでは無理か」
「そうですね。あと、モニカ殿はモニカ殿で大至急戻ってもらいたいとの事です」
メイリン経由でカスミたちから連絡があった。
一体何が起こったのか、イマイチ要領を得ない連絡だが、一先ずモニカには帰還スキルで村へ戻ってもらう事に。
「わ、私もご主人様と一緒に行動したいのですが……うぅ、行ってきます≪帰還≫」
モニカは唇を尖らせていたが、とりあえず行ってくれたので、俺もネーヴと人形たちを連れて急いで移動する事にした。
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