第671話 黒髪の少女!?

「一先ず、この者たちの身元を調べますので、暫くお待ち下さい」


 グレイスについては、この辺りでは人間が珍しい事と、俺がグレイスを助けに来たという事もあってか、早々に解放された。

 しかしながら、他の女性たち……特に、奴隷紋のある牛耳の女性は時間がかかりそうだ。

 とはいえ、乗り掛かった船なので、見捨てる訳にもいかず、詰所の外で待っていると、


『エクストラスキル≪奴隷解放≫のクールタイムが終了しました。再使用可能です』


 奴隷解放スキルが利用可能となった。

 とはいえ、流石にここでは目立ち過ぎる。

 何事だ? と、また兵士が来ても困るので、人気の無い場所を求めて地上へ。

 ネーヴの時のように、召喚したら燃えていた……なんて事もあるので、街の外まで出て、


「≪奴隷解放≫」


 ミオとグレイス、ユーリを守りながらスキルを発動させると、黒髪の少女が現れた。


「黒髪っ!?」

「えっ!? 何!? 誰っ!? というかここは……外!? やったー! 何か良く分からないけど、出られたーっ!」


 そう言って、黒髪の少女が突然走り出す。


「ま、待ってくれ! 話を聞かせてくれないか!?」

「ヤダよっ! やっと自由になったんだもん! 家に帰るのっ!」

「いや、帰るのは勿論構わない! ただ、話を聞きたいんだ!」


 もしかしたら、メイリンが探している、黒髪の一族の子孫かもしれない。

 家に帰るのは当然だが、少しだけ……少しだけ話を聞かせてくれっ!


「へっへーん! そんなにウチの事が気になるなら、追いかけてみなよー! 自由になったウチは……無敵だよーっ!」


 黒髪の少女が、砂の上だというのに凄い速度でからかうように俺の周りを走る。

 これだけ速いと、俺の閉鎖スキルでは捕らえられない。

 だが話を聞く為に、ここは本気を出させてもらう!


「≪分身≫」

「なっ!? 何それ凄い! けど、負けないもんねっ!」

「悪いが、本気を出させてもらう」

「えっ……ズルい! 服を脱いで身体を軽くするなんて! じゃあ、ウチも脱ぐもんっ!」


 複製スキルにより、全裸で現れた俺の分身が黒髪の少女を追いかける。

 たが、黒髪の少女が走りながら着ている物を脱ぎ捨て、更に加速した。

 砂地でなければ、まだ何とかなったのかもしれないが、この灼熱の太陽の下で走り続け……まだまだぁっ!

 俺は体力が自慢のパラディンだ!

 いくら分身全員で走り、疲労が一気に数十倍来ようとも、体力で負けるわけにはいかないっ!


「ふっふーん! これでウチの方が圧倒的に速いもんねー!」

「甘いっ! 周りをよく見てみるんだな」

「わぁっ! 裸の人に囲まれてるっ! に、逃げ場が……ない!?」


 複製スキルで出現した全裸の分身を除いて、分身を解除しておいた。

 これにより、相変わらず自動行動ではあるものの、ある程度俺の指示も出来るようになったので、少しずつ逃げ場を狭めていたんだ。


「むー……それなら、こっち!」

「ん? 正面突破か! 負ける訳にはいかないな」

「通ってみせるんだからっ! ……とぉっ!」


 黒髪の少女が全裸の分身たちを避け、唯一服を着ている俺の本体に向かって走って来た。

 服を着ている俺が一番遅いと考えたのだろう。

 だが、それは悪手だ。

 この中で、一番臨機応変に動けるのが、本体である俺だからな!


「来いっ!」

「とぉーっ!」


 少女が俺を避けようとするのではなく、正面からぶつかって来たので、両腕でがっしりと抱きしめ、動けないようにする。

 正面突破までは良かったが、体当たりで俺を倒せると思ったのは甘かったな。


「あー……負けちゃったー! 久しぶりの鬼ごっこ、楽しかったー!」

「そうか。それは良かった……俺も良い汗をかかせてもらったよ」

「でも、せっかくお家に帰れると思ったのに、また捕まっちゃった……」

「いやいやいや、待ってくれ。話を戻すが俺は、君に……」

「うん。ウチを奴隷にするんだよね? 全力で走って捕まっちゃったから、仕方ないか」


 いやあの、盛大な勘違いをしているが、違うからな?

 俺は黒髪の一族について話を聞きたいだけなんだ。

 どうやって誤解を解こうかと考えていると、


「アレックスよ。とりあえず、この場から去った方が良いと思うのじゃ。はた目には、全裸の男が少女を追い詰めているようにしか見えず、今もその少女は全裸のままなのじゃ」


 ミオから指摘を受け、大急ぎで場所を変える事にした。

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