324.薄くてお得なおろし金(2)

 レイルの声に慌てて両手を叩く。その手を玉鋼に置いた。奇しくも、某錬成漫画を真似てしまった。ちなみに原作の漫画派とアニメ派があったらしいが、オレは漫画派だ。ぐねぐねとうねった後、オレの知るおろし金が出来た。ぱっと光って完成品が置かれるパターンの方が、原作に近いかな。


 おろし金は台所で見かける、あんな感じ。金色っぽい金属の輝きと、小さな刃が並ぶ表面、おろした具を溜める部分もつけた。サイズが非常識なだけだ。持ち運びしやすいよう薄く、持ち手も付けたから完璧だと満足した。


『通販の謳い文句みたいだね、主』


「確かに……あと謳い文句になりそうなのは、切れ味とお値段?」


『僕としては、お値段より耐久性かなぁ。末長く使えるのがいい』


 ここは「末長く」を使う場面じゃないと思うぞ? じいやがいたら、即指導が入るぞ。


「キヨ、パパのお膝に戻っておいで」


 半泣きで呼ばれ、おろし金を置いて駆け寄る。国王陛下の膝に再び座り、ちょっとお耳を拝借。おろし金の使用方法を伝えたら、顔色が一気に白くなった。


「というわけで、ハーレム侯爵をヤっちゃってよ」


 この「ヤ」にどの漢字を当てるかで意味が変わるわけ。今回は「殺」だけどね。命が助かるかどうかは本人次第だ。処刑される罪人が多いから、片っ端から擦りおろしてもいい。


「おろし金を運び、処刑場に設置せよ」


 国王陛下のご命令だ。軽いが大きいおろし金は、兵士の手で運ばれる。オレがおろし金製作に夢中になっている間に、裁判はすべて終わっていた。新しくプリンシラ侯爵家を継いだ少年を連れ、外へ出た。ヒジリが珍しく譲歩したので、処刑場まで2人乗りと洒落込む。畏れ多いと騒ぐが、マロンの時のように前に乗せて運んだ。


 処刑場は通常、鍛錬に使われる広場を利用する。だが今回は罪人が多すぎて、処刑対象がずらりと広場を埋め尽くしていた。鎖で繋がれ並ぶ彼らの騒ぎは大きく、音を遮断する結界を作って、奴らの方へ被せる。


「ったく、うるさくて話が聞こえないだろ」


 処刑場が足りないと訴える処刑人は、斧に似た武器で首を落とすのが仕事らしい。振り上げる斧の重さに応じて、むきむきの筋肉がついている。これはコウコが涎を垂らす物件か。場所の問題は馬術訓練場を解放することとなった。一時留置に利用するらしい。


「まあ殺されたくないと騒ぐのも当然だと思うが……?」


 苦笑いするレイルが追いつき、処刑の見物人もぞろぞろと集まってきた。この場所じゃ狭いな。見物人は周囲の建物の屋上を利用することを許され、鍛錬広場を見下ろす位置は、民で鈴なりだった。


「そんで? おろし金とやらはどう使うんだ」


 興味津々のレイルが尋ねる。説明する前に、シンとヴィオラが走ってきた。王族なのに息が切れるほどの全力疾走、お疲れ様。はあはあ言いながら肩を揺らすシンの肩を叩き、続いて崩れそうな膝で息を切らすヴィオラを撫でる。


 現れた国王陛下が、王族席につくと場が静まり返った。シン、ヴィオラも王族席へ移動を促され……レイルはそれを拒む。曰く、これから起きる事象をできるだけ近くで見物したいんだと。オレは実行する側なので、現場にいないとマズイ。


「事件は現場で起きてる」


 にやりと笑った。ブラウが足元で『わかるぅ』と呟き、イラッとした様子のヒジリに踏まれる。この辺は日常なので無視だ。てくてくと近づくマロンはスノーを抱き上げており、王族席で待っていてくれるよう頼んだ。


 ハーレム野郎を擦り下ろす現場は、汚いからね。マロンには目の毒だ。


「使い方わかる? ほら、あれ……チーズ削るのと同じ」


 用途を察した処刑人は青ざめながらも、こくんと頷く。ごめんね、処刑は王族が手を汚しちゃいけないらしいから、お願いすることになっちゃうけど。


 あれ? 魔法でやったら手を汚さないから許されるかも?


 ちらっと後ろの国王ハオを窺ってから、笑顔で魔法を行使した。ハーレム……ハールス? 元侯爵は後ろ手に縛られている。これをクレーンで釣る。と言っても本物のクレーンの細部は覚えていない。オレの記憶にあるクレーンはこれだ! ゲーセンでよくお世話になったクレーンゲーム。近くにあった鍛錬用の鉄棒を材料に、クレーンを作り上げた。


 やっぱこれだろ。両手を叩いて閃光を散らして、完成品! 今度は完璧だった。

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