327.ヒジリの治療は高くつく(2)
「ヒジリ、お願い」
『仕方あるまい』
文句を言った割にはあっさりと、驚くほど広範囲に治癒を施した。かすり傷に絆創膏もどきを貼り付けた人も、傷口を綺麗に塞ぐために縫ったクリスティーンも、全員ひっくるめた治療だ。起き上がったシフェルはすぐに奥様の傷を確認し、問題ないことを確認してほっとした顔を見せる。
愛妻家って、こいつの事か。イケメンは中身もイケメンだった。この点はオレもがっちり履修して、常に……ん? 違うな、そもそもケガをさせないよう結界で覆うのが先だ。
「そんで何があったのさ」
「襲撃です」
「流石にその程度の見当はつくけど」
バカにされてるんだろうか。唸ったオレの語尾に被せるように、聞き慣れた声が部屋に響き渡った。
「治療用の絆創膏もどきを確保しましたぞ!!」
ベルナルドだ。すでに軍人を退役した元侯爵閣下だが、緊急事態で軍に戻ったか。あるいは現場に居合わせたか。後ろにジャック班の傭兵がいるところを見ると、オレが装備した官舎の備蓄から持ち出したらしい。後で騎士団に請求書を送るけどな?
「もう治ったよ」
ベルナルドが目を見開き、うるうると涙を浮かべた。すごい勢いで突進され、後ろのベッドに倒される。いい歳したおっさんが泣きながら、子どもに縋る姿って、どうよ。
「我が君っ! ご無事でしたか……っ、奴がキヨ様を傷つけたらと心配しておりましたぞ」
オレの知り合いが犯人か? 脳裏に浮かんだ知り合いから、まず傭兵達と家族を除外、もちろんレイルもだ。後の知り合いは……聖獣もありえないから、各国で知り合った奴らか。
「とにかく、事情を説明してくれっての」
ぽんぽんと肩を叩いてベッドに座らせ、隣に座った。向かいに椅子を持ってきたクリスティーンが礼を言い、シフェルも丁寧に謝辞を並べた。普通にありがとう程度でよかったんだけど。貴族の装飾過多な言い回しは理解できないんだよ。
簡単に言うと――宮殿の正面ホールを守る騎士に襲いかかった若者が出た。すぐに取り押さえられると思ったので、警報は出さない。庭からの帰り道にうっかり皇帝陛下がお通りになり、惚れたと騒ぐその若者が近づこうとして近衛騎士と戦う。でもって、騎士が多数負傷したものの、皇帝陛下は無事に私室へ逃げ込んだ。
逃げ込む際に階段で転んだため、手のひらと膝を擦りむいたが、現時点で治癒済み。こちらに医師と魔術師が駆り出されたため、騎士達は自力で絆創膏もどきを貼って回復中だった、と。
「あのさ、情けなくない?」
「面目ありません。鍛え方が足りなかったようです」
軽い嫌味に真面目に返されると、なんとも言えない。
「キヨ様、そのような意地悪を申し上げてはいけませんぞ」
すっと背後に控えるじいや、いつ来たのさ。オレに気付かせないって、凄いチートだけど。気配や魔力感知に引っかからないじいやは、平然としている。隠密とか暗殺者じゃないよね?
「その若者っての、オレを知ってたの?」
さっきのベルナルドの発言からすると、オレを狙ったら留守だったと聞こえる。だがシフェルや騎士の見解は違った。
「先にチート無双しやがって、と叫んでいましたね」
「異世界転生のルール守れ、とか」
おや? カミサマがまた誰かを召喚したけど、すでにオレが攻略した世界だったのでキレた感じの台詞だな。そんなわけないか。
「あと、右目に眼帯をしていました」
ものもらい?
「ああ、それなら見た。眼帯に剣先が掠めた時に、この右目が疼くとか気味の悪い発言を……」
あ、厨二病の方か。オレなら右手が疼くけど。じゃなくて、これは日本人でラノベやゲーム好きの、チートの可能性が高い。犯人のプロファイリングできちゃうくらい、情報を残してったが。異世界人だと情報がないだろう。一応レイルには連絡するとして。
「キヨ、まさか対峙する気か? やめておけ」
シンが止めに入る。だけど、オレが許すわけないよなぁ? 大切なリアにケガをさせたんだから、さ。
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