328.黒歴史の古傷(1)

 日本人会の情報網は侮れない。じいやが普通じゃないからか? レイルと大差ない時間で、詳細な情報を持ってきた。中央の皇帝陛下の襲撃を知らせたところ、北の国も警備を固めるそうだ。シンとヴィオラは、北の国へ強制送還した。代わりにレイルを召喚したいが、ピアスでの会話に留める。


 襲撃理由がオレ絡みだったら、人質や嫌がらせで北の王家は襲撃される可能性がある。王族関係は全部連絡したほうがいいじゃないか? そう指摘したら、唸りながらベルナルドが賛同した。というのも、南の国は傭兵であるジークムンドが国王だし、東の国はジャック絡みで繋がる上、獣人の国を作ると言い出したのもオレだ。西の国以外は全部危険だった。


 警備を固めておいて損はないと、すべての国に注意事項の連絡を行うことにする。後で連絡しておけば! となるなら、先に手を打つのが戦略だってさ。どうせ現場の戦術だけで切り抜けた異世界人ですよ。


 リアはゆっくり休めるよう、催眠効果のある薬湯を飲ませたらしい。眠ったところに重ねて、魔法陣を使って安眠を確保したとか。護衛はスノーとマロンだから、問題なし。


 彼女が目覚めるまでに片付けたいが、相手の居場所が特定できなかった。レイルの情報だと、同じ外見の目撃情報は中央の国に集中しているらしい。日本人会が調べてくれた結果は、西の国で大爆発があり、調査に赴いた兵士が眼帯の若者を見たというもの。どちらも同じ人物だろう。


 黒い眼帯をする奴なんて、滅多にいないし。どちらも右目だったというから……厨二の奴は拘りが強くて、疼く場所をあちこちに移動することは少ない。ちなみに根拠はオレだ。引きこもった頃は、右腕が疼く厨二だった。前髪を長めにしたり、髪型を決めてたり。服装に固執する奴もいたっけ。


 懐かしく思い出すが、まあ現実になれば痛い。すごく痛い奴だ。


「古傷を抉られる気がする」


 嫌だな。そいつと会えば、オレの厨二だった古傷が痛みそうだぞ。それも鼓動を止めそうな激痛が予想された。


「我が君、古傷が痛むのですかな?」


「これからね」


 今じゃない。そう告げて、首を傾げるベルナルドの肩を叩いた。身長は足りないので、足下にエアクッションという卑怯技を使う。


「リアの護衛はこのままスノーとマロンに頼むとして。コウコは一緒に来る?」


『ええ。あたくし、やられっぱなしは嫌いなの。それに魔力の匂いみたいなのを追えるわ』


 ……聖獣チートか? 爬虫類は匂いに敏感だが、その表現で合ってる?


「匂いで追えるなら頼もしい」


 本人のやる気は褒めて伸ばす方針で。コウコは嬉しそうに尻尾を振ると、しゅるしゅると空中を滑るように移動し始めた。ヒジリは股の間に首を突っ込み、上手にオレを乗せる。ブラウが影に飛び込み、顔だけ出して笑う。


『僕は伏線やるから』


「伏兵、じゃね?」


 じいやを見ると頷いたから合ってる。大丈夫。護衛はノア、ライアン、ベルナルド、じいやに決まった。正確にはじいやは執事で、護衛じゃないけど。気配消せるから、下手な傭兵より強いと思う。都合の悪いことは聞こえない青猫は、すでに姿を消していた。


『近いわ! こっちよ』


 コウコが興奮した声を上げ、空中を泳ぐ。全員を魔法陣で覆い、ぱちんと指を鳴らした。空飛ぶ絨毯を想像したが、途中で変更する。あの揺れる絨毯じゃ、落ちたら悲惨だろ。鉄板の上を想定して、魔法でまとめて移動だ。この世界の先輩のチートを見せつけてやんぜ!!

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