328.黒歴史の古傷(2)

 空飛ぶ鉄板だが透明、に乗って颯爽と現れたオレに、地上から銃口が向けられる。片目で照準が合わないだろうと思ったら、そこはチートでカバーしてきやがった。


「一撃必中」


「万能結界!」


 弾かれた銃弾に、黒い眼帯野郎が別の弾を取り出した。魔力を込めたらしき銃弾が嫌な気配を放つ。


『主殿、あれは危険ぞ』


「わかってる」


 返答したオレに向けられた銃弾が放たれた。人間に向かって躊躇なくトリガーを引くのは、この世界に呼ばれた人間だからか? オレも遠慮はしなかったし、感覚マヒした感じだろ。


「我が黒き魂の叫びを聞け」


「魂ごと引き裂いてやるぜ」


 四文字熟語の戦いは終わり、今度は厨二病台詞の戦いに突入した。飛んできた銃弾が結界を砕くが、残念でした。複数層だぞ。しかも密着型の防弾ガラスに、防犯ガラスの金属網入りだ! といっても魔力なのでどちらも透明だった。


「……おい、キヨ。先におろしてくれ」


「あ、悪い」


 乗り物酔いしたノアが青ざめた顔色で口を挟み、銃弾を防いだ結界を補強しながら地上に降りる。ベルナルドは小銃を構え、じいやは細いサーベルみたいな剣を持ち出した。


「じいや、装備はそれでいいのか?」


 間違ってるだろ。ここ銃撃戦してるんだぞ? 首を傾げるオレに、じいやは爽やかな笑みを向ける。


「問題ございません」


「ならいっか」


 じいやの自信満々な言葉に、オレはそれ以上の言及を避けた。考えてみりゃ、じいやを戦わせるのは違うよな。護衛はライアンとノアが請け負ったし、ベルナルドもいる。じいやは秘書兼お世話係だった。


「結界を可視化する。ぶつかるなよ」


 にやりと笑って、薄い水色をつける。これで結界の位置が分かるし、こちらからの攻撃はすべて通過させるイメージを作った。卑怯で結構。戦いは勝利が全て、歴史は勝者の言い分のみを書き記した自慢記録だ。


『あたくしが行くわ』


 ぐわっと炎を吐き出すコウコの後ろ姿に「宣言の前に噴いてるじゃん」と突っ込んでしまった。ヒジリはオレの斜め前に立って、威嚇のポーズを崩さない。少し離れた位置に伏せたライアンが狙撃銃を用意し始めた。ノアがサポートに入る。この辺は、二つ名持ちばかりのジャック班の面目躍如だった。


 ライフル銃で狙撃された眼帯野郎が、慌ててライアンに攻撃を仕掛ける。だがノアが簡単そうに迎撃した。


「魔力はあるが素人だ」


 辛辣な評価だ。


「あれじゃん? 来たばかりのオレと同じだから」


「キヨの方がレベルが高かった。少なくとも、銃の扱いは知ってたぞ」


 言われて、銃弾の装填にもたつく姿に肩を落とす。敵としてダメだろ、つうか魔法でカバーするとか考えろっての。中途半端に厨二病に罹った奴の末路か。


 銃弾が噛んで半泣きの眼帯野郎に近づき、銃口を頭に当てて安全装置を外す。ゼロ距離で魔力はたっぷり込めてやった。


「ひっ……あ、その」


「あのさ。転生に浮かれるのはわかるけど、異世界人チートは実力と努力が必要なわけ。そんな簡単にチートで楽できるわけねえだろ。全部手探りなんだよ」


 青ざめて震えるお子様相手に大人げないが、子ども姿なので許されるかな? にやりと笑って撃鉄を上げる。ガチャと金属音がして、彼は漏らしながら膝を突いた。


「普通ならここで許すだろ? それが主人公の寛大さを示すテンプレだからな。でもオレは違うぞ。お前が襲った黒髪美少女はオレの婚約者で、ケガをしたんだ……あとは分かるな?」


 首を横に振って涙を流す眼帯野郎のこめかみに当てた銃口をおろし、遠慮なく引き金を引いた。銃声が響いて、すごい悲鳴が重なる。撃たれた足を押さえて転げ回る姿に、溜め息が漏れた。


「なあ、こんなんだっけ?」


「痛みに慣れない日本人ならば、この程度かと」


 じいやはどこまでもじいやだった。容赦なくこき下ろす。身を起こしたライアンがライフルを片付ける間に、ノアはお茶を淹れたコップを用意していた。


「ほら、飲んでおけ」


「ありがとう」


 麦茶を一気飲みして、まだ泣き喚いている眼帯野郎はノアが回収する。乱暴に縛り上げ、芋虫状態で転がされた。


「一件落着、かな?」

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