25.やめろと言われたが遅かった(4)

「聞いてない…」


 いつの間に部下が増殖したんだろう。くれと頼んだ覚えもないので、余計に困惑してしまう。だって、前世界で一般人だぞ? 警察や自衛隊の指揮官じゃないのに、うっかり全滅させたらどうするんだ。


「出世なんだから喜べ」


 乱暴な仕草でジャックが頭を撫でる。見回した先の傭兵達は子供が指揮官で平気なわけないと思う。現場で裏切られても困るな……なんて冷めた考えが過ぎった。


「どうした?」


「ん、子供が指揮官だろ。よく納得したなと思って」


 この場で離脱表明してくれた方が助かる。そんな軽い気持ちで呟くと、黒髪の青年が苦笑いした。素直すぎる子供に傭兵側は驚いたらしい。


「お前が実力あるのは分かってる。年齢は問題じゃない」


「そうだぞ。何しろバズーカ3発も放って平然としてた奴だ。不満はない」


「なるほど……シンカーの支部を爆破したってのはコイツか」


「そりゃすごい」


 様々なご意見ありがとうございました。ここで締め切りたいと思います、と顔を上げたところで大人達は笑いながら手を伸ばす。あっという間にジャックの前から拉致られ、抱き上げてたらい回しにされた。あちこちで持ち上げられた状態で、頭を撫でられ肩を叩かれる。


「え、ちょっ」


 助けを求めるオレに、ジャックは機嫌良さそうに笑うだけ。ノアやライアンも手を伸ばそうとしない。手荒い歓迎のあと、なぜか机の上に下ろされた。ここは座る場所じゃないぞ。居心地の悪さに靴を脱いで、正座してみる。


 傭兵達の間から顔を覗かせた赤髪のレイルが、大笑いしながら肩を叩いた。


「お前は認められたんだから。堂々としてればいい」


 なぜか嬉しいのに鼻がつんとした。泣く気はないのに、視界が滲んだ気がして瞬きを繰り返す。今まで24年間生きてきて、こんなに手放しに受け入れられた記憶がない。きっと生まれた時や赤ん坊の頃は経験したはずだけど、まったく覚えていなかった。だからすごく嬉しい。


 同時に恥ずかしさに正座した膝の上に手を揃えて俯いた。


「レイルの言う通りだ。お前が指揮官だ。おれたちはお前に従うんだから」


 ライアンの声に顔を上げて「あ、ありがと」とお礼を言うのが手一杯だった。物慣れなくて頼りない子供なのに、こうして認めてもらえる。これからも頑張れば認めてもらえるんだろう。


 身を起こしたヒジリが、机に手をかけてオレの膝に肉球を乗せた。太い前足がぐっと力を込めると、机がぎしぎし悲鳴を上げる。


『主殿、腹が減った』

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