25.やめろと言われたが遅かった(3)

 貴族社会の裏を覗き見た気分だよ、うん。彼らも利用するから、オレも利用していいのか。貴族や皇族と縁がない一般人(引き篭もり直前)だったので、そういう話はわからない。交渉ごとならレイルあたりが得意そうだから、彼に任せるとしよう。


「なんだ、まだ足が痛いのか?」


 ライアンが苦笑しながら階段を下りてくる。以前に訓練であけた穴は、応急処置を施されていた。お陰でライアンも足を踏み外さずに降りてこられた。多少階段の板の色が違っているのは、まあご愛嬌だ。


 周囲から掛け声やトンカチらしき音が響く中、オレはきょろきょろ見回していた。


「足は平気。つうか、捕獲されただけ」


 答えながら、姿の見えない連中を捜す。まずレイルは情報提供に感謝を伝える必要があるし、ヴィリやサシャもお礼を言っておきたい。


「何を探してるんだ?」


「ヴィリとサシャ、あとレイル」


 ソファの上に下ろしてもらったところで、後ろをついてきたヒジリが乗っかる。顎を膝の上に乗せるのがお気に入りのようだ。オレが座ると、いつも膝の上に乗っていた。寝ているとこれが腹の上に変更されるのは、苦しいから止めて欲しい。


 本職の大工が集まっているため、手際よく室内が修理されていく。それを目で追いながら、オレは収納魔法から取り出したカップを机に置いた。まわりに集まった連中も同じようにカップを取り出す。ここには侍女さんがいないので、ポットも用意した。


「ああ、おれが淹れる」


 オカンことノアが慣れた様子でお湯を沸かし、茶色いお茶を淹れていく。湯気の出るお茶は、手元に引き寄せると麦茶の匂いがした。紅茶は一般的じゃないのか、単に彼の好みかもしれない。


「いただきます」


 挨拶して口をつけると、この世界にはない挨拶に慣れたノアやジャックも続く。勝手に集まってお茶のご相伴に預る傭兵連中は首を傾げただけだった。


「この官舎、いつからこんなに人口増えたのさ」


 見回した中には顔を知らない連中も混じっている。一目で傭兵だと判断したのは、彼らの格好にあった。明らかに好き勝手に選んだ服だ。迷彩柄だったり、丸首Tシャツだったりする。明らかに規律もへったくれもない服装だった。


 対する騎士は所属する団を示す制服を着ているし、非番でも所属部署ごとに割り当てられた色のスカーフを纏っている。いつもきっちり襟元をしめていて、だらしなく裾を出しっぱなしにしない。世間のお子様憧れの職業、騎士様だった。


「お前の部下が増えたからな」


「え?」


「知らなかったのか?」


 ぐるりと見回して、大きく首を傾げた。ここにいる傭兵連中、全部オレの部下なの? ざっくり30人くらいはいるけど。

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