25.やめろと言われたが遅かった(2)

 はあぁ……これ見よがしの大きな溜め息を吐くヒジリに、風魔法を送る。髭の先を切り落としてやるつもりだったが、ヒジリの前でふわりと消えた。


『主殿?』


 あ、気付かれた。つうか、魔法無効とかズルい。


「官舎に戻るか」


 ついに官舎と翻訳され始めた。これって、オレが公務員扱いになったわけだ。前は宿舎だったのに…いいけどね、皇帝陛下直属のあたりで公務員ぽいと思ってたから。


「やだ、庭行きたい」


「何をしに?」


「えっと……」


 特に何がしたかったわけじゃない。ふらりと庭へ出ようとしたら止められたので、ムキになっただけなのだ。改めて問われると理由がなかった事実を突きつけられ、視線がさ迷った末に艶のある床に落ちた。


「よし、官舎に帰るぞ」


「ついでだ、新しい銃のテストに付き合え」


「新しい銃!?」


 嬉しそうに頬を緩めたオレの様子に、ノアが肩を竦める。抱っこしたジャックの顔は見えないが、ぽんぽんと背を叩かれた。しっかり子供扱いが身について、ここ数日は違和感がない。心地よさを覚えて、ぎゅっと首を絞めてみた。引き剥がされる。


「ユハだっけ? お前の新しい従者もきたぞ」


「従者じゃなくて、部下」


 言い直しながら、ユハがすでに官舎に回された事実に驚いた。特に問題がなければいいと聞いたし、皇帝陛下の許可があるから大丈夫だと思っていたが……考えていたより大分早い。シフェルや騎士の反対にあう可能性も想定してたんだけどな。


 オレが信用されてるのか、ユハの真っ直ぐな性格が認められたのか。どっちにしても望ましい結果に、オレは機嫌が上向く。縦抱っこするジャックの焦げ茶色の髪をくしゃくしゃ乱しながら、荷物よろしく運ばれる姿に周囲から温かな眼差しが送られる。


 侍女のお姉さんやら騎士さんやら、生ぬるい眼差しをありがとう。


 見守られる環境に慣れていないので、かなり恥ずかしい。官舎の玄関をくぐると、職人さんらしきガタイのいいおじさん達が作業をしていた。


 ぽかんと口を開けて眺めていると、ノアが説明してくれる。さすがに壁まで壊れた部屋は可哀相だという意見が出て、予算から修繕費が捻出されたらしい。皇帝陛下が必死に探すくらいの戦力ならば、もう少し厚遇しても…と思った人の諫言もあったと聞く。


 今度会ったらお礼を言いたいので、名前をリストアップして置いてください。そう頼んだら「あいつらも利用する気があるから厚遇なんだ」とジャックに笑われた。

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