188.ひとまず夜営地確保(2)

 すでに街の連中は解散したし、南の兵士も勝手に夜営の準備を始めていた。このまま大通りを占拠しても問題なさそうだが、キベリを食べたら移動しよう。


『僕も手伝います』


 果物大好きなスノーが机に登り、チビドラゴンの短い手でひとつずつキベリを採り始めた。傭兵連中も手伝いながら、たまに口に運ぶ。スノーが綺麗にオレの前へ並べたので、礼をいって口に運んだ。


 やばい、普通にうまい。この異世界に飛ばされる未来の日本人へ、日本語とイラスト付きで食レポ残してやろう。食べ損ねたら絶対に損だぞ。でも日本人なら昆虫系は回避されてしまう。もったいない! 奇妙な決意をしながら、集まった連中に声をかけた。


「夜営する場所なんだけど、王都側でいい?」


「「いいと思う」」


「構わないが」


「危なくないか? 退路を断たれるぞ」


 そうそう、こういう意見が欲しかったんだよ。頷きながら、ぐるりと見回す。


「見張りをつければいけるんじゃないか」


 ライアンがぼそっと発言する。狙撃手で見張りを担当することが多い彼は、自分の経験から判断した。こういう意見のすり合わせがしたかったんだよ。


 にこにこしながら他の連中を見回すと、気弱で魔力ゼロのマークが口を開いた。


「あの、俺なら砦側にします」


「理由を聞いてもいい?」


「これから砦に置いてきた人達が合流するなら、近い方が便利ではないか、と……」


 自信なさげだが、彼の言葉に反論はなかった。そこでふと気づく。傭兵達って、自分の意見を押し付けたり他人の意見をいきなり否定しない。いろんな意見を出し合う中で言い争うことはあっても、実力行使で無理やり意見を通さない。


「キヨが決めれば、全員従うよ」


 ノアが苦笑いして肩を竦めた。そこで納得した。彼らは仲間の話を聞くし否定しないけど、ボスが動けば逆らわない。群れとして動く以上、上位者の命令に逆らう危険性を身をもって理解していた。


 戦地で勝手に右左に動いたら、部隊全滅があり得るのだ。過酷な状況を生き抜いたからこそ、事前に話を終えて動き出したら余計なことを考えない。キベリを唇に押し当てるスノーに促され、素直に口に入れた。


「よし、決めた。拠点は王都側、見張の指揮はライアンに任せる! それと……オレはこれから転移で砦に行くから、向こうの連中と戻ってくるまで待機して」


 自分だけなら転移も簡単だ。一度行ったことのある場所だから、明確に場所を指定できた。地面に埋まらないように気をつければ、空中に放り出されても魔法が間に合うだろう。


 決めた内容を早口で告げ、慌てて付け足した。


「待機中の指揮権はジャック。万が一戦闘状態になったら、無理に街を守らず砦まで撤退してね」

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