188.ひとまず夜営地確保(3)

 万が一の策も授けたし、さてと……移動しようと立ち上がると、スノーが小さな手で必死にキベリを床に落とし、そのまま自分が飛び込んだ影の中から回収する。


 食い意地張ってるな、自分で収穫できるんだし、全部置いていけばいいのに。小型の獣があたふたしているのは可愛いので放置した。


 ヒジリがのそのそと後ろから近づき、コウコ達も先回りするらしく影に飛び込んだ。マロンは……その巨体で影に入れるの? と見守ったら、足の先を入れた途端に消えた。


 なんと! そんな技があったとは?!


「キヨ、現場は俺が預かるが……帰りも転移で帰れないのか?」


「1人ずつ運ぶと朝になると思う」


「「なるほど」」


 そう、転移で大量に運べないのが欠点。魔力量の問題かと思ったが、何やら制限が掛かってるらしい。数人なら一緒に連れてこられるが、大人数ならこの距離は歩いた方が早かった。


 朝になって魔力切れのオレを担いで移動するのもありだけどね。


「はい、テントの移動よろしく! 先に寝具と食料だけ出すから、数人来て」


 夜営予定地に決めた王都側の空き地に陣取る。収納から順番に折り畳みベッドや毛布を取り出し、調理器具を並べる。机を並べて大量の食料を渡した。


「料理当番はノアに指示を受けて。オレの味付けに一番近いぞ」


「「あいよ」」


 寝具を移動する連中の前に、テントが運ばれてきた。このワンタッチ式、めちゃくちゃ便利だ。誰かが持ち込んだ技術なんだと思えば、なんだか懐かしさすら覚えた。


 ワイヤーが入ってて放り出すとポンと広がるドームテント、あのくらいなら作ってもいいだろうか。今度、ヴィヴィアンに相談しよう。


 にやにやしながら、転移魔法陣を足元に転写する。ノアが「水筒!」と投げて寄越したのを受け取り、景色がぐにゃりと歪んだ。三半規管がぐるぐるする感覚があり、ぽんと硬い地面の上に放り出された。


『主殿!!』


 影を使って先回りした黒豹が、よろめいたオレを受け止めてくれる。ふかふかの毛皮に倒れ込み、そのまま頬擦りした。


「さすがヒジリ、あり……がと」


 ガチャ、撃鉄を上げる音がして顔をあげたオレは、丸い銃口がぼやける距離で突きつけられていた。


 戻った砦に、知らない奴がいて銃を向けられた場合、オレは攻撃してもいいの?

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