48.返すから撃つなよ(2)

「こっちの被害は、軽傷2名だけ。向こうは王と跡取りの首……数十人規模の重傷者だ」


 とんでもない戦果を披露され、本気で驚いた。


「え、マジで?!」


「今回は地下からの奇襲がうまくいった。おれから高い情報買った効果が出て良かったじゃないか」


 くすくす笑うレイルは、どうやら高額で情報を売り抜けたらしい。たぶんケチに分類されそうなシフェルが素直に払ったなら、その対価に見合うだけの貴重な情報だったんだろう。


 まあ、命には代えられないってことだ。


「そんなに高く売りつけたなら、お釣りで今回の情報料は足りそうじゃん」


 子供から金を取る気か? 先払いの情報を値切ろうとするオレに、レイルは目を瞠った。それから忠告するように声をひそめる。


「おれは後払いの仕事はしない。つまり、もう情報料は回収済みだ」


「うん?」


「まず聖獣の青猫がおまえと契約した、これが情報として売れる。おまえの傭兵達との作戦遂行状況も仕入れ対象だし、中央の皇帝陛下に関する情報もいくつか手に入れたし?」


 指折り数えたレイルが、少し考えて付け加えた。


「仕入れが多すぎるから、陛下がらみは返すわ」


 その言葉に右手から力を抜いた。机の下で見えないはずの銃に気付いているレイルが、両手を挙げて「おお怖い」とおどけて見せる。本気で撃つか迷ったが、リアムに関する情報を外にバラ撒かれるのは困るのだ。彼女の身が危険に晒される可能性があるなら、選ぶのはレイルより彼女だった。


 主であるオレの緊張感が伝わったのか、ブラウとヒジリが尻尾を床に叩きつけている。こいつらケンカばっかだけど、意外と気が合うんじゃないか? 答えによってはレイルに襲い掛かりそうだ。


「返すから撃つなよ」


「信用するぞ」


 念を押せば、レイルは両手を挙げたまま頷いた。銃の引き金から指を外して安全装置を掛ける。まだ銃をしまう気はないので、ソファの脇に置いた。


「ところで……どうやって銃をそこへ出した?」


「秘密」


 ジャックやノア達に驚かれて気付いたが、この世界の連中が使う収納魔法は出口はいつも同じ場所に作った。たとえば立った状態で顔の前から取り出す奴は、座っていると取り出せない。条件がいろいろ厳しいのだ。


 まったく常識や概念に縛られないオレがあちこち高さや位置を変えて、収納空間を開く姿は『規格外』という言葉で括られた。つまりこれは貴重な能力の使い方で、他者に教えない方がいい。情報屋にタダでくれてやる情報じゃないって話だ。

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