48.返すから撃つなよ(3)
「幾ら払う?」
「……いい性格してるぜ。このおれに情報を売ろうっての?」
それほど知りたい情報じゃなかったのか、レイルは苦笑いして両手を下ろした。紅茶を引き寄せて口をつけ、一息ついて立ち上がる。
「おれはそろそろ帰る」
「ありがとさん」
ひらりと手を振れば、リアムが寄りかかったまま動かない。そっと黒髪をのけて覗くと眠っていた。見合いの釣り書きに怒り狂った辺りから、気を張っていたのだろう。物を投げて暴れて疲れたらしい。
「見送りは不要だ、またな」
気遣って小声のレイルが消えると、侍女がストールを持ってきた。起こさないようにリアムの肩にかけてくれる。動けないオレは目配せで礼を言うと、僅かに身体の位置を動かしてリアムが楽に寄りかかれるように調整した。
足元に擦り寄るヒジリがごろんと寝転がり、ブラウが背中の後ろにもぐり込もうとしていた。じゃれているのかと思えば、オレを支えてくれるつもりらしい。2匹の気遣いに感謝しながら、リアムの黒髪を撫で続けた。
「陛下は……」
「いまはお休みで」
ひそひそ話す声に目を覚ますと、侍女とシフェルが扉の前にいた。こちらを見ながら話すシフェルと目が合って、空いている右手でひらひら手を振る。左肩に寄りかかったリアムはそのままで、まだ眠っているらしい。
そろそろ首が痛くなりそうだと思うし、眠り続けたら夜に寝られなくなってしまう。心配からリアムの頬をつついてみる。ふにゃっと表現したくなる幼い顔で目を開いたリアムが、ゆっくり瞬きした。それから口元を押さえて、ひとつ欠伸をする。
「起きた? シフェルが帰ったみたい」
「……ん……シフェル、が?!」
言葉が途中から鮮明になったリアムが飛び起き、肩を滑り落ちたストールに驚いている。寝ていた自覚がない彼女へポットから淹れなおした紅茶を差し出した。
満面の笑みで対応しているが、実は左の腕と両足が痺れていたりする。変な格好で眠ったのと、足の上に顎を乗せた黒い獣が原因だ。のっそり動いたヒジリがおりても、膝から下が痺れていた。
「とりあえずお茶飲んで。シフェルも飲む?」
カップを用意しながら尋ねると、「いただきましょう」と目の前の椅子に座った。眠る前までレイルがいた椅子だ。リアムが視線で促したのを確かめて座ったシフェルは、言いづらそうに言葉を探していた。身内が起こした騒動をどう説明するか考えている。
「もう話しちゃったから、心配しなくていいよ」
彼女は知っている。そう示したオレに、シフェルは安堵した顔をみせた。
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