72.聖獣いたら、オレは必要なくね?(2)
立ち上がったオレは、周囲の光景に絶句した。コウコが「薙ぎ払った」結果……北の兵達はほぼ壊滅状態だ。焼け爛れた大地と、服や髪に火がついて慌てる人々、観念して武器を捨てて投降した奴など……。もう戦いそうな敵は見当たらなかった。
「……この現場で着替えかよ、くくっ」
そんな優雅でのんびりした事している場合じゃなかった。面白いと喉の奥を震わせて笑うレイルの向こうから、駆け寄る傭兵達が手を振る。反射的に振り返しながら、オレは乾いた平原で首をかしげた。
「聖獣いたら、オレは必要なくね?」
ユハの腕を縛るロープを、奪ったばかりのナイフで切る。間合いを狂わせる錯覚機能つきの刃は、やや歪んでいた。どうやら反射を利用した錯覚らしく、ロープを切るような単純作業だと使い勝手が悪い。
『主人がいなければ、あたくしは戦わないわよ』
『我もだ』
口を揃える聖獣達に、オレが返せた言葉はひとつ。
「うーん、オレはお前らの操縦桿か」
それなら必要かも知れん。かなり情けないが、巨大戦艦コウコと有能戦車ヒジリの司令塔として頑張ろう。血塗れ靴下を盗む変態猫は除外する。
『主、さりげなく僕をディスらなかった?』
勘のいい巨大青猫を手招きして、いそいそ近づいたところを拿捕する。テレビで観たプロレス技で首を絞める。人相手には危険だが、聖獣だから死にはしないだろう。ちなみに兄弟とプロレスごっこした事がないので、どこまで絞めると危険かわからん。
「靴下返せ!」
『無理!』
即答した青猫を絞めていると、集まった傭兵連中が口々に賭けを始めた。どちらが勝つか、胴元はいつのまにかレイルが務めている。
「7:3で聖獣か。キヨ、絶対に勝てよ」
にやりと笑って、レイルがオレに賭けた。気持ち的に負けてザマァしたいが、ブラウに負けるのも腹立たしい。じたばた暴れる猫を絞め落として立ち上がった。
「今度こそ帰れるんだよな?」
近づいてきたブロンズ髪色の青年に尋ねる。整った顔で頷くシフェルに、「よしっ」とガッツポーズが出た。
これで可愛くて綺麗な
踊り出しそうに喜ぶオレの姿に、ジャックが苦笑いした。ノアはお茶のカップを用意し始め、サシャがユハを助け起こしている。
愛用の銃片手にライアンが捕虜らしい男を引きずってきた。
「北の王太子だ」
「は?」
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