119.薔薇の下の秘密、みたいな?(3)
「ふふっ、そうか。ヒジリ達の実力を信用してたと……へぇ」
呟きながらヒジリを振り返る。黒豹の喉を撫でてやり、猫なで声で頼みごとをした。
「ヒジリ、シフェルにお土産あげて。さっきのブラウが持ち帰った
『主殿、悪い顔をしておるぞ』
苦言を呈しながらも、ヒジリも多少思うところがあったらしい。わざわざシフェルの目の前に蹴飛ばした。転がる生首、切断された手足、最後にデカイボロ雑巾のような胴体。絶句するシフェルに、ヒジリ曰くの悪い顔で言い放つ。
「シフェルが信用してる聖獣ブラウの持ち帰ったお土産、きちんと素性を調べて首謀者の周辺も捕まえといて。優秀な騎士様なら出来るよね?」
「……セイは怒らせると怖いな」
ぼそっと呟く嫁に「そんなことないよ」とフォローは忘れない。しんと静まり返った隣室の傭兵達の空気が重い。空気を読まないノアが、すたすた歩いて来てお茶を淹れ始めた。
「キヨ、これを飲んでおけ。そっちのお偉いさんは飲むのか?」
「淹れて!」
もらったカップの中身に口をつけてから、隣のリアムに渡す。ほうじ茶の香りに目を輝かせ、リアムは初めての味を口に含んだ。驚いたように目を瞠る。同じようにノアから受け取ったほうじ茶を飲んだオレは、次の言葉に動きを止めた。
「上品な皇帝陛下の口に合わねえだろ」
悪口じゃない。ただ素直なノアの気持ちだった。声に悪意はなくて、口に合わないなら無理をして飲むなという気遣いすら感じる。
なぜだろう、悔しいような不思議な気持ちが胸を襲った。熱くて苦しい感情に名前が付けられない。
「いや、美味しいぞ。飲んだことがない味だが、すごく香りがいい」
答えるリアムにも気負いはなかった。褒めるために言葉を取り繕った様子もなく、また口をつける。オレが普段使うカップも高価なものじゃない。傭兵連中が使ってる普通の、どこにでもある安いカップだった。
この国の最高権力者に渡したオレもオレだが、差別意識も先入観もなく飲むリアムも大概だと思う。止めないシフェルやクリスは何を考えてるんだろう。
いっぱいになった感情を込めた溜め息を吐いた。すこしだけ楽になる。
「キヨ、大切な話があります」
「うん、行くよ」
気が抜けた感じで返事をして、リアムと手を繋ぐ。狙撃されたオレを心配してくれた傭兵達に「夕食までに帰る」と約束させられ、シフェル先導で歩き出した。尻尾を揺らしながらついてくるヒジリ、影の中から出てこないブラウとコウコ。スノーに至ってはずっと顔を見せない。
足元の影がいつもより暗く感じる。前にドラマで「薔薇の下に死体を埋めて秘密を共有する」話があったな……ぼんやりと怖い記憶を探りながら、珍しく恐い顔をしたシフェルの後を追った。
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