05.猫じゃなかった(5)

「セキマさん、来たの?」


「ああ、倒れてるお前を無視してさっさと銃だけ回収していった」


 オレ、無視されたんだ……へえ。いや、いいんだけど? いいんだけどさ。


 子供が倒れてたら気にしてくれるのが普通だよな。最初に会ったときの印象は悪くなかったけど、実は性格悪いのか? めっちゃ心配して付き添ってくれとか言わないが、銃の回収だけってのは…。


 ライアンの説明に、複雑な思いが滲んで顔が引きつる。



「ところでな、勘違いしてるみたいだが『赤魔』は名前じゃないぞ?」


「え?」


「あいつの名前はレイルだ。戦うより情報屋として名を馳せてる。その二つ名が『赤い悪魔』で略して赤魔ってわけだ」


 咄嗟に口元を押さえる。ライアンは「やばい奴なんだよ」なんて同情っぽい口調で肩を叩いてくれてるが、オレは必死に笑いを堪えていた。


 ヤバイ、吹き出しそう。


 なに、その廚二病みたいな二つ名。髪が赤いからか? それ以前に二つ名って、普通にあるんだ。


 確かに魔法使い映画でも『疾風の○○』とか『闇の○○』とかあったけど、あんな恥ずかしいの、現実で呼ぶの? 使えるの? 呼ぶたびに笑う予感しかないけど。


 肩を震わせるオレに何を思ったのか、ジャックがくしゃりと髪を撫ぜる。


「まあ、二つ名あるような実力者だってことさ。この最前線でも二つ名をもらう実力者は2割もいないしな」


 ……2割近くも、あんな二つ名持ってる人がいるんだ……っ!


 まあ、ファンタジーだから? 仕方ないのか。


 そこでふと気付く。


 ジャックは現場で指揮を取っていた。つまり、指揮官クラスってこと。まさか……?


「えっと……ジャックもあるの? そういう名前」


「あるぞ」


 答えたのはジャックではなくノアだ。慌てた様子で止めようとするジャックの手を払うノアが告げたのは、またもや痛い名前だった。



「『雷神ジャック』だ」


 雷神……、近いうちに風神も出てきそうだ。


 フラグを立てた気もするが、たぶんどっかにいる。妙な確信を持って聞いた名に、ジャックはむっと口を尖らせていた。


 どうやら二つ名が気に入らないらしい。


「格好いいじゃん、ジャックは嫌いなの?」


 子供特有の無邪気な残酷さで、傷口に塩を塗りこむ。計算してにこにこと笑顔を浮かべれば、吹き出しそうな顔の緩みも誤魔化せて一石二鳥だった。


 頭の上に置いたままだった手がぴくりと動き、ジャックが大きく溜め息を吐く。次いで、その手に頭をがしっと鷲づかみにされた。


「呼ぶなよ?」


 疑問系の言葉だが、声は強制力が滲んでいる命令だった。頭を掴まれた状態で逆らう術はなく、傷口に塗りこんだ塩は早々に回収する。


「わかった」


 素直に了承したオレに、ジャックは苦笑いして乱暴に髪をかき乱した。

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