05.猫じゃなかった(4)

「ただ……牙の戦闘能力はかなり高い」


 その戦闘能力こそ、牙が周囲から排除されない理由だろう。4つの国に囲まれて常に敵の真ん中で戦うこの国にとって、戦闘能力が高い種族や属性は必要不可欠だ。


 強いから、多少のトラブルは見逃される。ましてや、高い能力を誇る牙同士で集まった『リラ』という部隊の評価は高い筈だった。


 多少の問題を起こす精鋭部隊扱いだ。


「……牙は竜より強いの?」


 あの嫌悪感や恐怖は、牙への拒絶反応だと思う。オレの子供っぽい問いかけに、ジャックは笑いながら首を横に振った。


「竜の能力は高いが、滅多にいないからな。牙はかつて竜の眷属だったし、竜の方が明らかに上だ」


 思い浮かべたのは本に書かれた順番だ。気性が荒い属性が左側に並んでいたが、もしかしたら強さの順に多少関係あるのかも知れない……いや、それはないか。少なくとも犬や猫より兎が強いってのは想像できない。気が強いってのは理解できるけど…。


 かつて友人が飼っていたウサギを思い浮かべて溜め息をついた。



「竜だといいこと、ある?」


 一番大事なことを聞いておく。


 希少種なのはわかった。牙より立場が上だった時代があるのも理解した。ただ珍しいだけで際立った能力がないなら、この異世界で生き抜くのが難しくなる。


 ふと……気付いて周囲を見回した。簡易ベッドに座るオレのベルトに、銃がない。見回しても枕元やサイドテーブルの上に銃はなかった。


 あれは武器であると同時に、他人からの借り物だ。命より大切にしろと言われたことを思い出し、血の気が引く。


 やばい、殺されるかも……。


「竜は魔力や気配を感じる能力が高く、さらに…」



「ごめん、遮っちゃうけど」


 説明を止める声を上げれば、ジャックは小首を傾げて続きを促してくれる。


 気遣い上手なお兄さんといった感じだ。彼とはこれからも良好な関係を築いておこう! 保護者代わりになってくれそうなジャックをロックオンしておく。


「オレが持ってた銃、どこいった?」


 最後に手にしたのは倒れる前、アラクネに向けた時だ。あの後に気を失って運ばれたとしたら、誰かが預かっている可能性がある。


 セキマと呼ばれていた彼に会う前に返してもらわないと、命が危ない気がした。


 失くしたなんて言ったら、無言でいきなり撃たれる……たぶん。


 ノアが目を見開き、何か納得したように頷いた。


「銃なら、赤魔に返したぞ」

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