第2章 危険察知能力ゼロ
06.平和ボケのツケ(1)
僅か数時間前、そんなやりとりをした平和な時間もありました――日記をつけていたら、間違いなく最初の文章はこれだ。
ジャック、ライアン、サシャ、ノアのグループは小隊を組んでいた。
かなり実力は上らしく、周囲の連中が一目置く立場だったらしい。というのも、誰かに言い聞かされたわけじゃない。彼らと歩くと他の連中が一歩引いて道を開けてくれたり、若い兵士なんかは頭を下げた。
まあ、12歳の外見のオレより若い兵士は見かけなかったが、中の精神年齢は高いから観察すればある程度の力関係は把握できる。
そんなわけで、いつの間にか彼らのグループの新入りとして認識されたオレだが……今は彼らと完全に別行動をしていた。
『別行動させられている』が正しい表現で、強制された上に現在進行形だ。
「……あのさ…」
「うるさい! 黙ってろ」
言葉と同時に頬を殴られる。そのまま引きずられて歩き続けるしかなかった。
複数の痣が浮かんだ手足、見えていないが腹部や背中にも傷がある。歩くのも必死の状況だった。
たぶん熱が出てると思う。ひどく喉が渇いて怠いし、傷めていない関節が痛んで辛かった。
両手を拘束する手錠の鎖は長く、男が引っ張って歩くために作られたようだ。
かつての世界ではコスプレでもないと見たことがない青い髪と青い瞳の男は、40歳代くらいに見えた。人並みの顔だが、目つきが鋭く損をしている感じだ。
女子供に泣いて逃げられそうな傷が顔に2本もついていた。さぞやモテないだろう、と気の毒になる顔だ。
ずるずると疲れた足を引きずって歩くが、そろそろ限界が近い。
「……っ」
足元の小さな段差に躓いて、手を突くこともなく転がった。
ああ……もうだめ、動けない。ぶつけた爪先は激痛でずきずきするし、眩暈と怠さに目を開けているのもキツかった。
「起きろ、ほら」
苛立った男に髪を掴んでまた殴られる。痛みが麻痺してきているのか、ふわふわする感覚の中で鈍い衝撃が頭を揺さぶった。爪先の痛みも、身体の辛さも気にならなくなる。
なんで、こんなことになったんだっけ?
地に足が着かない感覚の中で考える。起きろと怒鳴る男の声は遠くて、隣の部屋の音のように現実感がなかった。
じゃらり、鎖を引っ張って立たせようとしているが、体力的に無理なものは無理だ。殴られたいわけじゃないが、動けなかった。
「っ、けほっ」
いきなり腹部を蹴られる。
起きないガキに苛立つのはわかるが、乱暴に扱いすぎだ。死んだらどうしてくれる……。そんな文句が脳裏を踊りながら通り過ぎた。
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