06.平和ボケのツケ(2)

 ほぼ他人事だった。



 ああ……そうだ。ライアンと食料品調達に出て、途中で逸れたんだった。


 周囲の男達はオレより背が高く、気付けばライアンを見失っていた。慌てて探し回って……昔聞いた話を思い出す。



 迷子になったら、逸れた場所から動くな。



 慌てて見回した風景は見覚えのないもので……戻ろうにも、逸れた地点すらわからなくなっていた。


 知り合いもいない市場の真ん中で、不安に駆られて立ち竦む。そんなオレを格好の獲物と判断した男に騙されたのだ。


 “迷子の新人か? しょうがねえな、こっちだ”


 引っ張る腕の強引さに、てっきりライアン達の知り合いだと勘違いした。僅か5分後には裏路地に引っ張り込まれ、抵抗むなしく手錠をかけられる。



 日本人は平和ボケしている――確かにその通りだ。平和で安全な日本にいたときの感覚が抜けていなかったんだと思う。


 知らない人間についていっちゃいけません――言われたな、子供の頃。そんなの当たり前だろって、心の中で罵ったかつての誰かさん、ごめんなさい。知らない人についてった挙句、捕まりました。


 手錠はめられるのも、こんなに無造作に人間殴る奴みるのも初めてだ。


 初体験に感動する余地はどこにもないが……。



 この青い男は他にも2人ほど子供を連れていた。もちろんオレと同じように手錠と鎖に繋がれ、しっかり殴られた痕もお揃いという状況だ。


 どうやら、戦場周辺をうろちょろしているガキを捕まえては売りさばく仕事をしているらしい。


 正直、男の動きはライアンやジャック達と比べればイマイチ精彩さに欠ける。しかし、まだ碌に訓練も受けていない新人や子供相手なら十分勝てるレベルだった。


 元からの体力や腕力が違うのだから、大人の男に敵わなくてもしかたない。


 ……わかっていても腹が立つ。


 騙された自分も、捕まって逃げられない未熟さも、そしてこの男の浅ましさも……何もかもが怒りを向ける対象だった。その苛立ちから、ついくだらない抵抗をして殴られる繰り返しが続いている。


 逃げることを優先するなら、抵抗をやめて大人しく体力温存しチャンスを狙う――頭で理解できるが、無理。


 我慢できるほど大人なら、かつての世界でもちゃんと就職してイイコでいただろう。



 この世界に来て、外見に引きずられて子供っぽい言動が増えていた。ちゃんと甘やかしながら叱ってくれるジャック達の存在が大きい。


 長男は弟妹がいると損だった。


 いつだって「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」と言われ、彼らの面倒を押し付けられ、場合によっては彼らの代わりに叱られて頭を下げる。そんな中、親に甘えられなくなったのも当然で……気付いたら両親と話をしなくなっていた。


 言っても無駄だと思ってしまう。


 どうせ弟妹を優先すると決め付け、親が放置したのを幸いと引き篭り一歩手前の体たらく。


 まあ、サバゲーのおかげで完全な引き篭りにならずに済んだが、学校を卒業しても定職に就かずブラブラした。だが考えてみると、本当は甘えてたんだろう。


 会うことも不可能になった今だから、逆に素直に自分の感情を認められた。

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