第29章 貴族連合って何?

196.泥沼の情報戦(1)

 病気の妹や年老いた母。人質を取られた彼らを見捨てるのを待ってるなら、オレが動けば彼らはどうする? こちらが悪いと一方的に責め立て、士気を高める気だろう。


 中央の国の侵略だと吹聴し、人々の怒りを高める。仮想敵国を作り出す気だった。そう考えながら、レイルに声をかける。


「なあ、情報操作って得意?」


「それなりに」


 何かやらかす気だと気づいたレイルが、にやりと笑う。悪ガキみたいな共犯者の顔で、互いの右手を握り合った。


「オレは正義の味方だと思うんだ。聖獣コンプリートしたし」


「正義は立場により異なるぞ」


「ふーん、レイルでも同じことするくせに」


 同じ立場なら、南の国の人間を煽動して王族を追い落とすだろ。確信を持って告げれば、意味ありげに笑みを深める。それは肯定だった。


「貴族の考えそうなことは想像がつくさ。おれも元は王族の端くれだ」


「奇遇だな。にわかだけど、オレも王族なんだ」


 にやにやしたレイルの言葉に、彼も同じ結論に達したと理解した。貴族連中はオレ達を悪者にしたい。南の兵に仕込みをしたのは、負けかけたときの保険だった。中央から来た連中に潜り込ませ、中で騒動を起こさせるための起爆剤として。その保険が役立ちそうな今、すでに王都はあらぬ噂が広まっているだろう。


 中央の国の兵士が攻め込んで、辺境の街を壊滅させた。オレ達は南の兵士を捕虜や盾として利用し、南の国を滅ぼそうとしている。だから戦わないと殺されるぞ――そう言われたら、人々は必死で歯向かうだろう。


 なら、逆の情報が流れたら?


「呪縛から解放して、自由にしてやる」


「さぞ喜ぶだろうな」


 南の王侯貴族の横暴は、民だって承知している。出来れば王族を交代したいはずだ。土地との契約があるから王族を殺せない。だが、オレは聖獣の主だった。


 オレがいれば、新しい王族を選定できる。しかもこの南の国の聖獣であるマロンを従えていた。逆らう余地はないんじゃないか?


 宗教という概念がないこの世界で、唯一の崇拝対象が聖獣だった。そんな聖獣をすべて従えたオレは、どの国の王族より上に立つ。気に入らない王族を消し、新しく選んだ手駒を王族に据えることが可能なのだから。


 逃して言葉にしない部分を察したレイルが、煙草に火をつけた。独特な甘い香りが漂う。麻酔効果のあるハーブを楽しみながら、彼はついでのように残りの情報を口にした。


「シフェルが動いた。宰相と一緒に貴族への根回しだ。東は篭城戦の準備で、備蓄を増やしてるぜ。傭兵もかき集めてるってよ。あと……」

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