195.人質が大人しいとは限らない(3)

 唸るオレの様子に、聖獣達は顔を見合わせた。振り返るとジークムンドに縛り上げられたリシャールと部下が転がり、正面はのたうち回るドラゴン多数。前途多難だと溜め息をついたオレの肩をぽんと叩いたレイルが、肩を竦める。


 どうやら情報収集を終えて追いついたらしい。いつも思うけど、情報屋って神出鬼没だな。オレの転移みたいに何か能力を隠してないか? 居場所がバレるのは赤いピアスのせいだとして、追いつくのが早すぎる。


「レイルぅ」


 懐いてみたら、気持ち悪いと叩かれた。なぜだ、解せぬ。オレは美少年のはずだろう。しかも義理の従兄弟だし、もっと大切にしてくれてもいいんじゃないか?


「情報を持ってきた。こっち来い」


 どうやら仕事モードだったらしい。素直に後ろへついていこうとすると、慌てたマロンが叫んだ。


『ご主人様、これはどうしますか?』


「使うかも知れないから、そのまま捕まえといて。絶対に逃がさないで」


 ちょっと外道な作戦を思いついたオレの命令に、マロンは目を輝かせる。金の一角獣と呼ぶにふさわしい姿に進化――でいいのか?――した聖獣は、機嫌よく長い首を縦に振った。ほっとした様子で息をつくのはヒジリとコウコだ。スノーはドラゴンを威嚇して脅かしながら、彼らを一か所に集めていた。


 行方不明になったブラウは、ちゃっかりオレの足元を八の字歩きして飼い猫アピールだ。さりげなく足に頬ずりしながら歩く青猫の脚を、わざと踏んづけてやった。調子よすぎるんだよ、お前。


「ここらでいいか」


 開けた場所を選んだレイルに頷き、収納から取り出した椅子を渡す。自分の分も置いて、さっさと腰掛けた。ノアが用意してくれた水筒の麦茶を飲みながら待てば、煙草を咥えたレイルがちらりとジークムンドたちの方に視線を向ける。


 聞こえない距離で、レイルは煙草を手にさりげなく口元を隠した。狙撃手のライアンは口元を読むからな。用心だろう。疑ってるからではなく、疑わないための先手だった。


「もう遅いようだが、リシャールの部下が裏切る話がひとつ」


「うん、襲われたね」


「簡単に言えば、病気の妹を盾に取られたらしい。貴族のやったことで、王族は絡んでなかった。他にも数件は同様の事案があるぞ。年老いた母親、嫁いだ姉の借金、婚約者もあったか……どうする?」


 南の兵士を切り捨てた方がいい。戦力としての利点はないと告げる、レイルの判断はたぶん正しい。面倒事を内包して戦うのは危険だと忠告してくれた。その気持ちをありがたく受け取りながら、オレは飲み終えた水筒を彼に差し出す。


「オレが見捨てるのを待ってるんじゃない? 実力差がありすぎるんだし、ハンデあげてもいいよ。それと新しい武器も手に入れたから、色々と試してみたかったんだ」


 にっこり笑って出来るだけ簡潔にソフトに伝えたのに、引きつった笑いで水筒を押し返された。

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