195.人質が大人しいとは限らない(2)

「はい、お疲れさん」


 終わりと告げて、リシャールに従う男の首にナイフを当てる。人質が怯えて大人しくなるのは、お姫様ぐらいだからね。通常は暴れるし、泣き叫ぶし、お母さん呼んじゃうから。オレは自分で撃退する派だけど。


「ちっ、殺すなら俺にしろ」


「うん。そういうと思ったんだ。だから彼を選んだの」


 リシャールは意外と人情派だろう。困ってる奴がいると手を差し伸べ、仲間のためなら命を投げ捨てる系のお人好し。生き残れたのは実力があるからだけど、彼が命を落とすとしたら部下が足を引っ張った時だ――今のように。


「キヨって時々残酷だよな」


「鬼だろ」


「いや、悪魔の微笑みってこんな感じか」


 にっこり笑って、余計な口を叩く傭兵達を視界に収めていく。顔を覚えたぞ、と言わんばかりの仕草で頷いて眺めるオレに、慌てたジークムンドが手を振った。


「お、俺はそんなこと思ってないぞ……本当だ! ボスは強いし、ご飯も作れる。尊敬してる」


 慌てて褒めるジークムンドだが、一応二つ名もちの有名な傭兵だろ? そんな簡単に子供に遜ったらまずいぞ。外聞悪いじゃないか。


 そんな嫌味が頭の中を巡るが、口にする前に後ろで苦痛の声が上がった。


 ぐぎゃああああ! ぎゃうう! ぐげっ!!


 背の高い奴にナイフを突きつけるのも疲れるので、手を離して下がった。途端に飛びかかったジークムンドやノアが彼らを拘束する。それを横目に確認して振り返った先は、阿鼻叫喚の嵐だった。


 先ほど飛んできたドラゴンが、すべて地に叩きつけられている。翼の真ん中に大きな穴が開いたり、付け根から切り落とされたりした彼らは、巨大トカゲの群れと化した。


 地面から突き出た杭に刺さった仲間のそばで、おろおろするドラゴンの背にも氷の矢が刺さる。正確には矢と表現するより太く、杭や槍の方が近かった。


 燃えている個体もおり、生きたまま焼くのはちょっと残酷すぎるんじゃないかな? と首を傾げて声をかける。


「楽しんでるところ悪いけど、やり過ぎっぽい」


『えええ!? 主人を襲ったのよ』


『もう片付けちゃったよ、主ぃ。遅いんだもん』


 コウコの発言はもっともだが、ブラウは後で顔貸してもらおうか。体育館裏へ……と言いたくなるが我慢だ。奴は逆に喜ぶから。


『そうです! 私だって戦えます』


 同族に見えるけど、やっつけてもいいのか? スノー。白トカゲは胸を張るが、色違いのお友達っぽいぞ。


『我は杭を作っただけだ。刺さったのは奴らが鈍い所為よ』


『ちゃんと全部追い立ててきました!』


 責任転嫁を始めた黒豹の後ろで、得意げなマロンが角を振り回しながら興奮していた。褒めるべきか、叱るべきか……悩ましい。

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