196.泥沼の情報戦(2)

 勿体ぶって、レイルは煙を吐き出す。


「シンが頼って欲しいとさ。何か無茶を言いつけてやってくれ。後は黒髪のお姫様からの預かり物だ」


 ちゃんと渡したぞ。念を押しながら渡されたのは、青い宝石が輝く黒い絹の紐だった。戦場にいる恋人に己の髪色や瞳の色を使った編み紐を送るのが流行っている、そう教えられて顔が綻ぶ。


「可愛いなぁ。本当にリアムって最高」


「今の言葉以外に何か、伝えたいことはあるか?」


 中央の国へ一度戻るようだ。伝言があれば預かると言われて、少し考えてしまった。咄嗟にカッコイイ言葉が出てこない。


「愛してる、すぐ迎えに行くから……くらい言ってやれよ」


 くすくす笑いながら揶揄うように告げるレイルへ「オレの前に言うなよ」とぼやく。そんなやり取りを邪魔する物音が響いた。


 さっと地面に伏せたのは、物音が銃声だったからだ。地面を伝う足音は、オレらを探す傭兵だろう。


 小さく口笛を吹いて位置を知らせ、少し離れた茂みに飛び込んだ。広い範囲を検索するため、魔力感知の方法を変更する。魔力節約の網目を張り巡らすオレは、左に感じた敵に向けて銃の引き金を引いた。


 乾いた音の直後、太腿を赤く染めた男が両手を上げて武器を捨てる。投降する意思を示す男に、オレは眉をひそめた。


 おかしい――この程度のケガで投降するなら、なぜ傭兵集団に銃撃を仕掛けた? 他の銃声が聞こえないのも変だ。この男1人の単独犯?


「……ああ、言い忘れたけど」


 ぼそっとレイルが付け加える。まだ煙草の火を消さない余裕ぶりだった。煙と匂いで居場所バレるのに、それでも勝つ気だろう。実際大した敵じゃなかったけど。


「貴族連中が連合組んで、お前に懸賞金を懸けたぞ」


「――それって、喫緊の最重要情報じゃね?」


 どう考えても、アホ貴族に躍らされた連中の襲撃じゃねえかよ! 茂みの近くに銃弾が撃ち込まれるが、魔力感知を切り替えて波紋にしてみた。驚くほどいるじゃん……。


「魔力が少なすぎると、魔力感知に引っかかりづらいんだよな〜。ったく、面倒くせぇ」


 ぼやきながらレイルが周囲の様子を窺う。巻き込まれた形だが、ちゃんと銃を抜いてるあたり、オレを襲う連中を迎撃してくれるつもりだ。


 感動しながら、銃を3つも引っ張り出した。全部弾込め終わってるから、これで50発くらい行けるか。オートマの銃は便利だ。


 かちっと安全装置を外し、遠慮なく撃ち込む。人に銃口向けたんだから、多少のケガは我慢してもらおう。

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