196.泥沼の情報戦(3)
『主ぃ、手伝うぅ?』
「手伝わないという選択肢はないだろ」
『どっかで聞いたなぁ……』
思い出せないと唸りながら、足元から飛び出した青猫が巨大化する。銃弾が数発撃ち込まれるが、風が弾いて足元に着弾した。爪先ぎりぎりだからな!!
「うぉっ! ふざけんな、ブラウ! 跳弾した弾がこっち来……え?」
文句言いながら立ち上がってしまい、がちゃっという金属音と同時に大量の銃弾を浴びた。これが集中砲火ってやつか。結界できっちり弾きながら、慌てて茂みにしゃがむ。
ん? ここらにレイルいなかったっけ?
『主殿、赤毛から伝言だ。頑張れ、だったか』
黒豹ヒジリがのそりと身を起こした。彼も普段の黒豹サイズから巨大化して敵を蹴散らす気らしい。聖獣がついているとビビらせる目的もあるようだ。ヒジリの姿を見るなり、悲鳴をあげた数人が逃げ出した。
「キヨ、首を下げろ」
言われた通りに身を低くすると、ライフル弾が頭上を飛んでいく。ライアンの援護だ。彼を守るため、サシャが銃を構えてライアンの近くに控えた。腕のいい狙撃手は貴重で、さらに狙われやすいからな。連射出来ないのがライフルの欠点なんだよ。
「殺すなよ」
一応声をかけたオレの隣に、ずざーっと音を立てて滑ってきたノアが「何でだ?」と尋ねる。ケガひとつない二つ名持ちの傭兵達は、それぞれに配置についていた。
この辺は兵士と違って勝手に判断して動くから助かる。少し先の茂みにジャックの気配を感じた。近づくヴィリの手元にあるの……あれ、爆弾だろ。
「ヴィリが……っ」
「ああ、問題ない。煙と光、多少の釘だけだ」
「ちょっ」
問題だらけだろ!! 最後の釘はなんだ? 尋ねる前にヴィリが投げた爆弾が放物線を描く。手榴弾に似た塊は、オレが両手で掴むくらいあった。投げる腕力の凄さは感心する。
ドンっ!! 激しい振動と音、衝撃が広がってあちこちで呻く声が聞こえた。かなり効果的だったのは認める……悔しいけど。
慌てて確認すると、ほとんどの敵が点滅していた。ケガ人多発だ。まだ警戒しながら集まってくる傭兵に、ジークムンド達がいない。
「ジークは?」
「ああ、レイルの情報戦の手伝いを頼まれてついてった」
オレ、司令官だよな? 侵略の指揮をとる、一番偉い人のはずなんだけど……部下は勝手に動くし、扱い酷くないか?
「キヨ、忙しいから手伝ってくれ」
くそっ、もう情報関連はあっちに任せた! どうせ現場の人間だよ、動くのがむいてるよ!! 心の中で文句を言いながら、大股に傭兵を従えた姿に、南の兵士がざっと避けた。危険人物認定されたが、これで兵士の離反は減るだろう。
『主人、襲撃者を集めてきたわ』
『僕もです』
コウコとスノーが得意げに「褒めて」と告げるので上空を見ると、大木より高い位置で吊り下げられた連中が泣き喚く。いい大人がみっともない、そう思うより早く合掌した。
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