83.沈んで笑って、食料ピンチ!(2)

「この先が広場になってるぞ」


 ジークムンドの言葉に頷いて、傭兵達はぞろぞろと歩き出す。この隊列の順番は、騎士、兵士、捕虜、傭兵だった。捕虜の位置は逃走防止だとして、傭兵が殿しんがりなのは、やっぱ序列的な感覚なのかも。


「ご飯だ!」


「よし休憩!」


 傭兵はもともと数人から数十人の部隊を複数寄せ集めたため、各集団ごとに隊長がいる。一番大きいのはジークムンドの部隊かな。逆にジャック達は4人と最小グループだった。爆弾大好きヴィリは、どちらとも違う部隊所属だ。


 各部隊ごとに休憩を始めたので、中央あたりにかまどを作る。さすがにヒジリも慣れてきて、何も指示しなくても鍋用4つと網用2つを用意してくれた。まず鍋にスポドリ風味の飲料水を3つ作る。


「水の補給しておいて」


「「「「あいよ!」」」」


 彼らが水分補給している間に、捕虜である王太子君へスポドリ鍋をひとつ提供した。今回の運搬係はサシャとライアンだ。手早く取り出したテーブルに食材を並べる。


「あちゃ~、中途半端だな」


 そろそろ補充しないと足りないんじゃないか? 本当は傭兵連中の分を作らなくても、彼らは必要日数分の携帯食を持っている。だからオレが全部食材を出す必要はないので、当初の計画で用意した食料が足りなくなったのだ。


 自分と聖獣達、あとはジャック達ぐらいまでしか考えず、多めに持ってきた食材が尽きそうだ。今夜到着した街で補充できるだろうか。


『足りぬのか? 主殿』


「うーん、残りが中途半端だから困るなと思って。とりあえず塩とハーブで全部煮るか」


 困ったときの鍋物料理だ。冷蔵庫に余った食材を全部ぶちこむ系の大雑把な調理法だが、全部かき集めれば鍋4つ分くらいはあるだろう。


「干し肉を煮るか?」


「……足りなければ干し肉と乾パンかな」


 唸りながら、ブラウの尻を叩いた。


『何するのさ』


「材料を切って、鍋に投入。コウコは火の番をよろしく!」


 ヒジリはどこに行ったのか。きょろきょろしていると、影の中から黒豹が飛び出した。


「脅かすなよっ!」


『主殿、なぜ座っているのだ?』


 口に咥えていた獲物を地面に置きながら、ヒジリが首をかしげる。お前が突然出てきたから驚いて尻もち付いたんだよ! って文句言いたいけど、恰好悪いから口にしたくない。複雑な心境で必殺技を繰り出した。


「それ、どうした?」


 これぞ、秘儀『話題逸らし』だ。ヒジリが持ってきたのは、以前もお見かけした兎もどきだった。明らかに異世界食材だが、食べたので美味しいのは知ってる。


『肉が足りぬというので、狩ってきた』

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