89.倒したドラゴンの中身が……(3)
「……わかった」
『僕にも名前をください』
土下座……トカゲでもそう表現していいのか。床にぺたんと平らになってお願いされたので、少し考えこむ。一般的に白は『ブランシェ』だとか『アルブス』なんかが一般的か。ブランは青猫と被るし、アルブスも白髭の某魔法使いを
「……シロ、読み換えてハク?」
『主ぃ、それは川の
「ああ、そうか」
周囲は「またか」と温い目で待ってくれている。傭兵連中は慣れてしまったのだ。非常識な指揮官は、きゅーと鳴く白トカゲの聖獣と契約するのだ――と、のんびり待つ。契約後は話が聞こえるようになるが、契約前は鳴き声でしかない会話を予想する遊びまで始めていた。
「やっぱり白い物……雪、スノー?」
『主って名付けセンスないよね~』
「煩い、ブラウ! 踏むぞ!!」
叱りつけて顔を上げると、白トカゲは目を輝かせていた。元から金瞳だから輝いてはいるが、嬉しそうに舌先をちろちろさせながら声を上げる。
『スノー! それがいいです』
「あ、いいんだ。じゃあスノーで」
意外と素直な真面目君みたいだ。ブラウと選手交代で! と考えたのがバレたのか。ブラウが細い目で睨んでくる。にやりと笑い返してやった。
『主様、これからよろしくお願いします』
「こっちこそ」
契約が済んだオレの頭をジャックが手荒く撫でる。よく見ると捕虜の数人はまだ鎖が付いていて、その先をジークが確保していた。
「王太子さん、なんでここに来れたの?」
「心配だったのと、部下を助けてもらった礼を言いたくて。ありがとう」
頭を下げられて、ちょっと居心地が悪い。
「助けたのって、ここにいる全員だから。傭兵は気のいい奴が多いからさ。オレはコイツらに頼まれたから動いただけだぞ」
「……相変わらずだな」
苦笑いしたレイルが差し出したお茶を口にしながら、痺れた手をグーパーしてみる。ぎこちないがさっきよりマシだ。油の切れた機械みたいな動きが、やっと滑らかになってきた。
ほんのり甘いお茶に、くんくん匂ってみる。なんだろう、懐かしい感じがするな。
「毒は入れてないぞ」
「うーん、懐かしい気がするんだよ。子供の頃飲んだような……」
「今も十分子供だ」
「確かに」
「子供のくせに騒ぎに首を突っ込みすぎです」
笑い合う傭兵連中に混じり、奥から顔を出したシフェルが拳を頭の上に落とした。ゴツンと響いた音に「うわ、痛そう」と声があがるが、正直そんなに大したこと……あるわ。マジ痛い。さらに拳をぐりぐり押し付けられて、激痛にぐったりしたところで許された。
お茶のカップを回収したレイルが、声を殺して大笑い中。この男の笑いのツボはよくわからん。
「っ、……まだ飲むか?」
ようやく笑い止んだが顔がにやけているレイルに、素直に頷いて手を伸ばした。取り出した水筒から注いでくれるお茶の色は柔らかなブラウンで……あ、思い出した。
「甘茶だ! お祭りのときに飲んだやつ」
「……こんな地方のお茶、よく知ってたな」
驚くなかれ、レイル君。これは異世界にもあるお茶だ。子供の頃にお祭りで飲んだが……なんだっけ。花が咲く木の若葉じゃなかったか?
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