89.倒したドラゴンの中身が……(2)

「あの……悪かった」


 奥の方にいた男が謝る。頭を下げた彼の顔に見覚えがなくて首をかしげると、「門番だよ」とジークムンドが教えてくれた。


「いいよ、もう」


 孤児を差別するのは、この国では当たり前だ。ならばその常識が変わるまで、彼らの態度の本質は変わらないということ。今謝るのは、ドラゴン退治の英雄様扱いの子供に機嫌を損ねられたくないからだろう。嫌な考え方だけど、中身まで子供じゃないから大人の部分で納得する。


「ドラゴンはどうしたの?」


『主殿、それがな……仲間が増えた』


「うん? 仲間? 増えた?」


 大量の『?』を振りまきながらベッドの下を覗くと、白いトカゲ様がいた。軒下に白蛇が棲むと縁起がいいと言うが、これはトカゲでも適用される言い伝えだろうか。異世界な時点でアウトか?


 輝く金瞳は聖獣の証だっけ……この眼差しは、あれだ。仲間になりたそうに云々ってパターン。


『僕を助けてくれてありがとうございました。聖獣として主様あるじさまのお役に立ちます』


 トカゲは妙に礼儀正しく挨拶した。影の中から出てきた黒豹ヒジリが取りなすように説明を始めた。その話を総合すると、襲ってきたドラゴンは寝ていた白トカゲを餌として飲み込んだらしい。


 元は黒いドラゴンだったが、聖獣の魔力によって金瞳と白い鱗を手に入れたのだ。魔力があふれる状況に興奮したドラゴンが近くにいる魔力に惹かれて顔を見せ、足元の小動物にちょっかいを出した。そして小動物の中にいたオレにやられた……と。


 おそらくドラゴンが引き寄せられた魔力は、3匹もいた聖獣だろう。同族の気配に惹かれた白トカゲの影響を受けたと思われる。つまり、オレ達が襲われた原因はコイツだ!


「いやいや、じゃないから」


『すまぬ、契約済みだ』


 ヒジリが呟くと、証拠を見せるように白トカゲは影の中に潜って顔を見せた。いやぁ……状況がわからないんだけど。そしてデジャヴにも程がある。聖獣って強制契約機能ついてるの?


「オレは承諾してない」


『お願いします。何でもしますから』


 出てきてぺこりと頭を下げるトカゲの、しょぼんと垂れた尻尾がちょっと可哀想だが……これ以上聖獣増やしたって困る。


「ここまで来たら、コンプリート目指したらどうだ?」


「そうだ、可哀そうだ」


「聖獣様だからな」


 周囲の傭兵にとって、聖獣は各自の国を守護する獣だ。神様や信仰がないこの世界で、唯一宗教に近いのが聖獣の存在だった。そのため、聖獣は大切にする意識が根付いている。このままではこちらが悪者にされそうだ。

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