90.リア充の英雄様は拘束プレイ中(1)

「毒なんか入れなくても同じじゃん」


「っ、よく知ってるな」


 驚いた顔を作ったレイルに、周囲の連中がざわつく。竜殺しの英雄で、聖獣4匹も従える子供に毒を盛ったなんて、確かに騒ぎになる。シフェルの手が銃のグリップに添えられた。


「このくらいじゃ平気だけどね」


 ニュースで騒ぎになったのを覚えている。子供の頃のお祭りで飲む甘茶が好きだったのに、ある年を境に出されなくなった。その理由が、どこかの祭りで濃く煮だし過ぎた甘茶の毒による食中毒だったのだ。普段飲めないお茶だっただけに、飲めなくなってがっかりした。翌年からお祭り参加サボったもんな。


「……毒殺を?」


「残念。ただのお茶だよ。特殊な飲み方すると危ないけど、そんなの産地の人は知ってるでしょ」


 ひらひら手を振ってシフェルの懸念を払い、後ろのクッションに寄り掛かった。ノアのクッション、硬めだけど身体を支えてくれて寄り掛かるのに最適だ。堪能しながら、集まった面々を見回す。


 ジークの部隊やジャックの班、シフェル、レイル、北の王太子と側近、門番……半分くらい知らない顔だな。こういう場面で刺客とか飛び出してきて、刺されるパターンのドラマ観たぞ。


 不吉なフラグを自分で立てたところで、本当に人影が飛び出してきた。


「キヨッ!!」


 目の前が真っ暗になり、続いて心地よい柔らかさに目を閉じる。やばい、このまま窒息してもいい。ゆるゆると持ち上げた手を、飛びついた人物の背に回そうとしたところで殺気を飛ばされた。肌がぴりぴりする。


「……クリス、オレ……殺されそう」


「大丈夫よ。もうドラゴンもいないし」


 夢に怯えた子供を慰めるようなクリスの優しい声に、口答えするのは大変申し訳ないが……。目の前の大きなお胸様にはずっと包まれていたいけど、息の根を止められそうな気配がする。


「いや、クリスの旦那さんに殺されそう」


 現在進行形で殺気が飛んできてる。首を傾げたクリスの金髪から甘い香りがして、追いかけそうになった手がぴたりと止まった。今、いてはいけない人がいた――よな?!


 強張る身体を無理やり動かした視線の先で、この世の者とは思えない美しい笑みを浮かべて殺気を飛ばす人が近づいてきた。殺気を飛ばしたのはシフェルだけじゃない。しかも黒髪に縁どられた美人さんは、非常に見覚えのある方だった。

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