90.リア充の英雄様は拘束プレイ中(2)

「……リア、ム」


「浮気者がっ!」


 パチンと平手をもらった。茫然としながら叩かれた頬を右手で押さえると、今度は逆の左頬も叩かれる。じわじわ痛い頬を両手で覆ったオレに、上から両手で顔を包み込むようにしながら、リアムがにっこり笑った。片膝がベッドに乗り上げている。


 なぜだろう、可愛いくて美しいのに……怖ろしい。


 震え出したオレに、リアムは一言ずつ区切りながら言い聞かせた。


「どうせ、余の胸は、平らだ。クリスには叶わないが、まさか、戦場で、浮気、されると思わなかった。覚悟しておけ、宮殿から二度と出さない」


「……え? 本当にリアムなの?」


 現実に頭が追いつけない。クリスにいきなり抱き着かれて、後ろにいたリアムに目撃されて浮気を咎められるとか――2つの世界合わせても初めての修羅場! しかも衆人環視しゅうじんかんしのこの場で?


 オレ、どんだけリア充なの。


 リアムは皇帝服だから男装中……つまりオレは男が好きだと思われてるんじゃ? 慌てて周囲を見回すと、さりげなく目を逸らされた。やっぱりぃ。


 周りの傭兵は全員見なかったフリで回れ右をし、状況がわからない捕虜も一緒に連れ出される。あっという間に人口が減った室内が、シンと静まった。気づけばレイルも逃げ出し、残っているのはシフェルとクリスや護衛騎士が数人だけ。


「ほう、とぼける気か? だが逃がさないからな」


 がちゃんと音がして、両手に手錠がかけられる。金属音につられて目を落とすと、本当に冷たい手錠がかかっていた。しかも手錠の先に鎖付き……これは犯罪者確定な奴じゃないか。


「え、ちょ…っ。あの……ええええ?!」


「安心しろ。プライバシーは確保してやる」


「あ、うん……じゃなくて。なんでこんなの……」


 彼女曰くの『婚約内定者の浮気現場』の容疑者なのは仕方ないとして、皇帝陛下が手錠と鎖を持ち歩く世界なの? 確かに銃と魔法があるけど、手錠も標準装備ですか!? 驚きすぎて真面に受け答え出来ないオレの両手は拘束され、頬に彼女の手が滑る。


「……あの……マジで?」


「ぷっ……ふふふ」


 笑いながら取り出した鍵を渡すと、リアムは笑いすぎて滲んだ涙をぬぐう。苦笑いしたクリスが受け取った鍵で手錠を外してくれた。茫然と見上げるオレの頬を撫でながら、リアムがまた吹き出す。


「質の悪い冗談はおやめください、陛下」


「……悪かった、が…そんなに驚く、とはっ……うふふふ」


 誰が持ち込んだ小道具かは置いといて、とりあえずヤられたらヤり返す!!

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