113.調理場はオレの戦場だ(4)
「このチーズを削ってくれ。細かい方がいいけど、このくらい」
手持ちのナイフで削ってみせると、青猫は簡単そうに真似をした。そこは腐っても聖獣様。あっさりとオレの要求通りのサイズにカットしていく。厚みも申し分ない。熱した鉄板の上は、泡を吹く溶けたチーズの海と化した。
「チーズフォンデュと洒落込みたいが、残念ながら器と火力の問題があるんだよな」
なんとか真似事は出来そうだ。煮詰まりそうなチーズに、先日の酒を少し足して伸ばす。ある程度混ざったところに、バケットタイプのパンを取り出した。戦用に焼いてもらった物だが、これをスッパンスッパン切って、鉄板の熱いチーズの上に並べる。
おわかりいただけただろうか?
チーズトーストだ! チーズフォンデュが無理ならトーストでいいじゃない! 昔のどこぞの王妃様の言葉みたいだが、まあいいだろう。チーズが焦げる匂いに釣られて、数人が調理場に足を踏み入れた。
「よし、そこの奴! ジークの班の奴だよな? 立ってる奴は親でも使えというから、皿に乗せたパンを運んでくれ」
こちらでは通用しない
「おい、ボス。そろそろ塊の中心が60度だぞ」
魔力の針を刺して温度を確認する方法を教えてやった男から申告に、慌てて駆け寄った。こんがり焼いた表面はかりかりで、中はジューシーなはず。
「薄くスライスして食べる肉だぞ。いいか、すっごく薄く……説明が面倒だからオレが切る」
風魔法を使って、薄くカットした。これまた包丁の切れ味なんて目じゃない。ぺらっぺらに切り分けたオレにジト目の連中の心境はわかってる。
もっと厚く切れ、けち臭い、だろ? でもな、この薄さがキモなんだよ。それから厨房で譲ってもらったデミグラスソースを薄めて、醤油を隠し切れない隠し味にしたタレをかけた。
洋ワサビは幸いにもこの国で普通に使われてたので、分けてもらう。ホールラディッシュとか名前は難しそうだった。見た目は割れた細い大根か、白いワサビって感じだけどな。
擦り下ろす作業も魔法でこなし、上に添える。上品な感じがして、この白はいいアクセントだった。薄切りにしたローストビーフは、きちんと折って並べるのがオレの流儀だ。大量に庭に生えていたクレソンも添えてやろう。
やべっ、今日のメシってば……宮廷料理みたい。
にやにやしながらローストビーフを運んだ。
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