113.調理場はオレの戦場だ(3)

 そう、コイツもきっと魔法は戦場でだけ使う派だろう。しかし魔法とは日常を便利に出来るアイテムで、しかも公害が発生しないし安上がりときた。国の成長産業として魔法が据えられててもいいと思うぞ。


 風魔法で切られた野菜をそのまま鍋に投入。肉も同じように空を飛んでいき、鍋の上で一口大にカットされて沈んでいく。調味料のハーブ塩と醤油を連れた……誤字じゃないぞ……オレが中を覗いて煮え具合を確認した。


「味付けはもう少し後かな。あ、肉が固くなるから弱火にして」


『わかったわ。リヒト、調整して』


 火の番はコウコ様様だ。彼女が一番調整が上手だった。そして現在、数人の火魔法の使い手が彼女に弟子入りしている。


「はい、このくらいですか」


『もう少し火力を絞って』


 リヒトは一番素質があるらしく、微調整は抜群だ。今日も弱火担当として頑張ってくれてる。ぐつぐつ大きな泡が出ていた鍋の表面は、水面が揺れる程度に収まっていた。


「うん、上手になったな。リヒト」


「ありがとう、キヨ」


 嬉しそうに、額の汗を拭う。やっぱり調整は疲れるらしい。そんなオレ達の様子は、この世界で見慣れた調理場の風景とかけ離れていた。


 肉を焼く鉄板の前では、真剣に肉を睨む奴が1人。彼に任せたのは肉の内部の温度が60度という火加減だ。前の世界で観たテレビの受け売りだが、ローストビーフを試してもらっている。あの柔らかな半生の薔薇色の肉がもう一度食べたい。


 塊肉を睨む男の隣で、別の鉄板で豪快に焼き肉を始める奴もいた。ユハに頼んだのはタレにバラ肉を漬ける作業だ。しっかり味の染みた肉を豪快に焼いていく。醤油のいい香りが漂う調理場に、誰かの腹の音が響いた。


「タレ付き焼肉、ローストビーフ、スープ、パン……チーズがあったな~乗せて焼いちゃうか」


 メニューを検討しながら、空いているかまどの前に立つ。


「コウコ、火」


『主人、たまには自分でやりなさいよ』


 苦言を呈するフリをするが、ミニチュア龍はくねくねと身体を捩って嬉しそうだ。ツンデレ系なのか? 頼られるといつも浮き浮きして手を貸してくれる。だから文句を言われても気にならないのだ。


「コウコがいるのに、オレが火をつける必要ないじゃん」


『あらやだ、口の上手い主人だこと』


 火力が違うコウコの魔法で、あっという間に強火が入ったかまどに鉄板を置く。収納口から取り出した大きなチーズの塊を、鉄板に乗せようとして動きを止めた。


「ブラウ、手伝う気ある?」


『もちろん! 食事のためだから』


 なにその、あなたのためだから的な口調。まあいいけど……変な知識ばかり覚えてくる奴だ。もしかして時折姿を消すのは、前世界を覗いてるからか? 魔法使い映画の最終話の結末だけでも、いつか教えてくれると嬉しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る