113.調理場はオレの戦場だ(2)
「オレが料理作ってる間、リアムはシフェルと待っててくれる?」
「やだ」
なぜ即答、しかも幼い感じの言葉遣い。可愛くて何でも許してあげたくなっちゃうだろ。悶えるオレが「でも、調理場は危ないから」と声を絞り出した。萌えすぎて声が震えるのは仕方ない。
「危険なのか?」
調理という作業を、当然ながらリアムは知らないし経験もないはずだ。だから危険という単語と、供される食事の関連性がわからない。脅す気はないが、危険性を説明した方がよさそうだった。
世間知らずのお嫁さんも可愛いが、ある程度の常識は教えておいた方がいい。
「調理すると、まず包丁を使う。刃物だから手を切る可能性があるだろ? あと焼いたり煮たりするから火傷の心配もある。リアムは慣れてないから、余計に危ないと思うぞ」
「キヨがまともな説明してるぞ」
「ほら、皇帝陛下の愛人候補なんだろ?」
傭兵達の発言に、眉をひそめた。なぜオレが愛人なんだ? リアムの性別誤解してるのは構わないから、恋人がよかった。とにかく、オレが調理場にいる間に余計な話を吹き込まないように釘を刺す。
「違うから! お前ら勝手なこと言ってると、給料カットするぞ」
「横暴だ!」
「ひどいぞ、ボス」
「ボスだからいいんだ」
きっぱり言い渡すと、冗談だと気づいた傭兵達が苦笑いして口をつぐんだ。こういう察しの良さは彼らの武器のひとつなんだろう。空気を読む能力は本当に高い。日本人的に好感度高いぞ。
「キヨ、私は陛下とここで待ちます」
「そうしてくれると助かる。うちの調理場は、風魔法やら火魔法が飛び交う戦場だからな〜」
呟いて暖簾をくぐると、ノアがすでに野菜のカットを始めていた。隣でサシャが鍋に水を満たす。全員、魔法を駆使しているのは、オレの指導の賜物だった。
だって魔法で水作れるくせに、鍋の水を汲みにこうとするんだぜ? 魔力酔いの心配があるのかと尋ねれば、それはないらしい。さすがに鍋に水作るくらいで魔力枯渇する奴はいなかった。最初から魔力ない奴は、別の手伝いを頼めばいい。
この世界には魔法があって、魔力も持ってくるのに使い方がおかしい。戦闘時に特化して使うのは、まあ戦時中だから理解できるが……日常生活にほとんど使わないのだ。
オレが見ていた中で彼らが使う日常魔法は、収納のみ。水を作ったり、火を点けたり、風で食材を刻むのは、すべて手作業だった。
やってみせれば真似するんだから、出来ないわけじゃない。単に思いつかなかっただけ。別世界から何人も来てる異世界人、仕事しろ! 魔法がある世界から来ても、オレみたいに魔法がない世界から来ても、誰かが指摘するべき問題だ。
「戦場とはどういう意味でしょうか」
興味半分でリアムと一緒に暖簾の陰から覗くシフェルが絶句した。
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