64.異国の食文化、万歳(2)

『主、すべて切ったよ』


 得意げにお座りして報告するブラウは、いつの間にやら巨大猫サイズに戻っていた。魔力を使うと戻る設定でもあるんだろうか。近づいて首に手を回して抱きつくと、ごろごろ鳴らす喉や眉間など猫が喜ぶところを徹底的に撫で回した。


『僕もあとで食べる』


「猫舌だよな~、たぶんヒジリも。コウコは……わからないけど」


 呟きながら鍋におたまを入れて少量掬う。味を見るとちょっと薄い気がした。ハーブを混ぜた塩を放り込んでかき回してもう一度味を確認する。


「こんなもんかな?」


 不安が残るが、まあいい。前世界で職人さんが家を直しに来たことがあって、その時は彼らの「塩分補給」に驚いた経験があった。だから少し濃い目に塩味をつける。傭兵だって、職人と同じ肉体労働者だから薄味はないだろう。


 4つの鍋をすべて同じ濃度くらいに味付けする。


「一応、塩も用意しとくか」


 ハーブ塩を山盛りにしたボールもテーブルに置いた。手早く薄切り肉を鉄板の上に並べて、鍋を下ろしたかまどの上に用意する。簡単焼肉だ。でも醤油やタレはないので、鍋用のハーブ塩を振り掛けるだけ。いつかタレを開発してやる!! リンゴと蜂蜜のCMはカレーか? あ、カレーも食べたい。


 過去の好物を思い出して涎を堪えていると、声がかかった。


「キヨ、もう配っていいか?」


「暴動がおきそうだぞ」


 笑いながらノアとサシャに言われて顔を上げると、驚くほど傭兵達が食い気味に鍋を覗いていた。ひとつの鍋で30人分はあるから、お代わりしても足りる……はず。頭の中で計算しながら、収納のリストを確認して大量のパンを引っ張り出した。


 テーブルに白いパンを山盛りにする。実は前回大騒ぎしたせいか、リアムが大量に持たせてくれたのだ。そして一部にカビが生えたので……あまり長期間の保存には適さないと判明したんだが。いずれ収納魔法は改良しよう。


「パンもあるから! 順番にね! 味が薄い人は塩を足して加減してね。割り込みしたらスープもパンも没収しま~す!!」


 しっかり釘を刺した。実力行使できるだけのメンバーが揃っているので、実際に割り込みしたら殴る気でいる。器を手に待っている彼らは、大人しく頷いた。


 うん、荒くれ者を纏めるには胃袋を掴むのが一番の早道で、一番確実だ。


「ノア、サシャ、配っていいよ」


 許可が出るなり、きちんと行列するのは意外だった。配給みたいな経験があるんだろうか。オレが没収と口にした所為かも知れないが、一列に並ぶゴツイおっちゃん集団は微笑ましい。

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