64.異国の食文化、万歳(3)

 オレがパンを配り始めたので、スープをもらった奴からこっちに流れてきた。合間を見て、聖獣用に器をだしてスープを確保する。肉と野菜の出汁にハーブの香りが漂う皿を、そっと後ろに置いた。


『こっち僕の!』


『主殿、もう食べてもよいか?』


『スープなのね』


 コウコもヒジリの上に飛び降りて、そこからするすると地面に下りていた。いつの間に……。


「食べていいけど、熱いから火傷に気をつけろ」


 一声かけて、そのままパンの配給係に戻る。いつのまにやら、隣でジークムンドが手伝っていた。


 一通り回ったのか、皆が食べ始める。各々好き勝手に集団を作って食べている姿を見回し、特に問題なさそうなのを確かめた。誰か一人だけ『ぼっちメシ』になってたら、オレが行こうかと思ったけど、そんなこともない。


「こっちの焼肉も食えよ!!」


「「「おお!!」」」


 食べかけのスープに焼けた肉を放り込む傭兵を見ながら、ちょっと遠い目になる。わざわざ薄切りにして分けたのに、一緒に食べるのか。スープにそのまま薄切り放り込んでも同じだったな。味付けもハーブ塩一択だし。


 なくなる前に白パンを裂いて、真ん中に焼肉を挟んで5つくらい手元に残す。


「お疲れさん、ほら」


 レイルがオレの分を確保してくれたらしい。まだ手付かずの鍋がひとつ残っているが、2つの鍋は半分しか残っていないし、ひとつはすでに空だった。


「ありがとう、一緒に食おうぜ」


 レイルを誘って、聖獣の隣に座る。椅子やテーブルを収納魔法から取り出し、肉挟み白パンを齧りながらスープを口に運んだ。


「お前、料理なんて出来たのか」


「本当に器用だな」


 寄って来たジークとノアがマイ椅子持参で隣に座る。いつの間にやらジャックとサシャ、ライアンも机についていた。


「この世界に来るまで、料理なんてしたことないぞ」


 けろりと白状すれば、レイルが不思議そうに尋ねる。


「なら、どうやって作った?」


「見様見真似だよ。オレのいた世界だと、鍋料理ってのがあるんだ。目の前に小さなコンロ……かまどを置いて調理するの。出来たそばから皆で食べるんだよ。だから作ってるのを目の前で見たことがあっただけ」


 思ったより肉が硬い。もぐもぐしながら、次は一口サイズじゃなくて豚汁を参考に薄切りにしようと決めた。そう考えると、焼肉をスープに入れた傭兵は正しかったのか。


 こういう参考にする料理を知ってることが、すでにチートなのかも知れない。

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