148.赤い指輪が示すもの(2)

 一言で表現するなら「狭い」――いや、王族の控室だから客間の中でも広い方だと思う。シンプルだけど休憩用のベッドがあって、オレはそこに座った。当然とばかり、隣に座ろうとしたシンがレイルに回収されてソファで憮然としている。まあ、シンは王族だからね……オレもだけど。


 客がいなければ問題ないベッドに座る行動だが、今回はいろいろ差しさわりがあった。中央の国の公爵家当主夫妻と前侯爵、皇帝陛下までご臨席――こういう時に使っていい言葉だよな?――賜っちゃった状態だ。


 1日の毒殺未遂回数3回、狙撃回数2回……あれ? 集計合ってると思うけど。とにかくオレは狙われ続けた悲劇の英雄様で王子様なので、リアムの「寝て休め」という言葉を半分だけ受け入れてベッドに座っている。寝転がる気はないし、でも魔力が足りないわけじゃない。逆に赤瞳をまだ抑えきれず、魔力が駄々洩れしていた。


 制御できてない感じが、なんともお恥ずかしい。漏れた魔力を後ろで舐めとっている青猫と黒豹、肩から下りてコウコと絡まって眠るスノーは何やらお疲れだった。後で理由を聞いてみてようか。オレが気づかないうちに、何かしてくれてたかも知れない。


「キヨヒト王子殿下とお呼びしても構いませんか」


 お伺いを立てられると断りにくいのが一般的だが、オレは別だ。


「お断りします」


 この世界の常識として上位者の個人名は、親しくないと呼ばない。ベルナルドに「キヨヒト」の名称を許せば、彼と親しいと公言するのも同じだった。貴族は言葉の端をつついて口撃したりやり込めようとする傾向が強い。ならば誰かに言質を取られるような危険は、避けるのが当然だった。


 ぽかんとした顔のシフェルとクリスティーンをよそに、リアムは納得した顔で頷く。シンも同じように危険性重視の立場で首を縦に振るが、ヤンデレの嫉妬である可能性は否定しない。


 手に触れるシーツはやや冷たくて、糊がきいて硬く感じた。腰掛けたオレの足元に座って膝に顎を乗せるヒジリがぺろりと手を舐める。視線を向けると、意味ありげな金瞳がオレとベルナルドを交互に見た。ゴメン、何を伝えようとしてるか……さっぱりわからん。


 黒豹を撫でながら、転がったコウコとスノーを眺める。夜会での威嚇が嘘のようにおとなしい彼らは、ぐてっとシーツに懐いた。寝ている彼らを引き寄せる。ご苦労さん……そんな気持ちで撫でた手に擦り寄るコウコは、するすると腰に巻き付いた。


 蛇革のベルト……いや、余計な比喩表現はやめておこう。スノーも腰にぺたりと抱き着いて満足げだ。威厳もない彼らはただの愛玩動物に見えた。

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