148.赤い指輪が示すもの(1)

 前当主と名乗っただけあり、老人と表現するのが似合う年齢だった。しかしひ弱な感じはなく、若い頃は軍属なのか鍛えた身体をしている。シャツを脱いだら腹筋バッキバキかも。


 貴族特有のひらひらしたシャツも似合ってるし、サンタクロースみたく蓄えた白い髭も立派だった。いわゆる「ザ・貴族」という男前だ。個人的に、こういうお爺ちゃんは格好良くて好感度が高い。


「ラスカートン前侯爵でしたか。どうぞ伺いましょう」


 話しかけた彼に驚いた様子のシフェルの反応から、どうも予想外の展開へ進んでいるらしい。ざまぁ系はこうでなくちゃ! やっぱり黒幕だと思った小物の後ろにもっと大物が控えてて、どーんと立ちはだかってくれないと張り合いがない。


 内心わくわくしながら、お行儀よく振る舞った。相手が下手したてに出た場合、こちらも相応に対応しないと周囲の心証が悪い。ざまぁの真骨頂として、相手の非を徹底的に突くのはもちろん、こちらの揚げ足を取られないのも重要だった。


「第二王子殿下の指輪は……どなたから譲られましたか?」


 言われて指輪を確かめる。リアムからもらった蒼の指輪、銀の指輪、透明の石が入った指輪……そしてレイルが嵌めた赤い石の指輪だ。


「どの指輪に対する質問ですか?」


 なんとなく答えは分かっている。リアムがくれた指輪は「作らせた」と言っていた。だから新品なので気を引くような要素はない。老人が気にするなら、古い指輪だ。


 指に嵌めてくれた時、レイルも「気付く奴がいたら面白い」と言ったではないか。その数少ない気付く人物が、目の前の老人というわけ。


「赤く丸い宝石の指輪にございます」


 不思議そうな顔をして、答えを探る。どう答えるのが正しいのか。レイルの名を出す、しらばっくれる、逆に問い返す。方法はいくらでもあった。


「気になるなら、一緒にどうぞ」


 退室する途中の声かけだから、ついてくるなら教える――そう告げて反応を見た。ちらりと視線を送った先で、レイルは獲物を見つけた猟犬のような眼差しで、ラスカートン前侯爵を見つめている。舌舐めずりする狼に似た、物騒な雰囲気だった。


「では遠慮なく、ご同行させていただきます」


 ヒジリと並んで歩くオレの隣を、当然のようにシンが陣取った。数歩遅れてレイル、さらに後ろをラスカートン前侯爵ベルナルドが続く。ブラウはひとつ伸びをして影に飛び込んだ。出番は終わりだと判断したのだろう。


 本当はもう少し断罪してみたかったが、ベルナルドの動きで予定が狂った。この変化が良い方へ動けばいいな。堅い表情のシフェルに疑問を感じながら、控室として割り当てられた客間へ足を向けた。

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