147.釣果はまだ集計中(3)
ちらりと視線を向ければ、シフェルがくすくす忍び笑っている。危険性は少ないのだろう。オレが感じた通り、皇帝陛下の義父狙いか。これなら実害は少ない。
娘をリアムに宛てがっても、いいお友達になるだけだった。何しろリアムは
「なるほど……北の第二王子では役者不足でしたか」
王族用の口調で肩を竦めたオレにほっとした顔を見せたグラッドストン侯爵は、これ以上引き出しがなさそうだ。つついてもボロが出ないなら、さっさとご退場願おうか。目くばせされた兄シンが内心大喜びで、しかし表面上は顰め面で近づいた。
「我が弟で不足と申すか、無礼なっ!」
事前準備ばっちりの白ワインを男にぶっかける。おかげでスノーやコウコが動きやすくなった。この男がつけているコロンだか香水が、何らかの毒草を使っているらしい。猫科のヒジリ達も不快さを感じていたが、爬虫類系のコウコとスノーは直撃だ。
意図したものか、それとも偶然か。尋ねるのは近衛騎士のお仕事だった。いやだな、シフェルの尋問――それも陛下や殿下にお聞かせできない方法――で聞きだされるなんて、オレだってぞっとするよ。お気の毒様。
「お兄ちゃん、そんなことしたら」
「問題ない。可愛い弟のためだ」
「余が許可する」
皇帝陛下の許可が出た茶番なので、遠慮なくシンは最後までワインを男にかけた。手にしたグラスを床に叩きつけて割る。怒ってるぞとデモンストレーションした後、顔を伏せて肩を震わせるオレを優しく連れ出してくれた。
レイルはわかりやすく顔を背けて笑いを堪える。後で覚えてろ。本気で機嫌を損ねた聖獣たちは尻尾を振ったり威嚇したり忙しい。真面目腐った顔をしているが、シフェルの眉がぴくりと動いたのは見逃さなかった。
肩を震わせて顔を伏せたオレは、一貴族にバカにされた怒りに震える王子様を装いながら、必死に笑いを誤魔化す。やばい、腹抱えて笑い出したい。なんなの、このちょろさ。もっとこう……後ろに黒い物を隠してないのかよ!
ざまぁラノベでも、もっと隠し事や裏事情がたくさん隠されてるものだ。現実は小説より奇なりというが、小説の方がよほど話が練られていて複雑だよ。
顔を覆うふりをした手の指輪がきらりと輝く。気づいたのは、すれ違った貴族の1人だった。年配で、代替わりした隠居っぽい爺さんが息をのみ、礼儀正しく声をかける。
「ラスカートン侯爵家、前当主のベルナルドと申します。シュタインフェルト王家第二王子殿下に、ご質問をお許しいただきたい」
「オレ、ですか?」
予想外の大物に声を掛けられ、オレはきょとんとした顔で足を止めた。
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