147.釣果はまだ集計中(2)

 ここに断るという選択肢は残していない。きっぱり言い渡したオレに、シンは眉尻を下げた。作戦を通り越して、本当に連れて帰ろうと考えていたらしい。


「お帰りになりたいのを無理にお引き留めするのは、失礼にあたりますな」


 遠回しに帰れと余計な口を挟んだ男に、オレは笑顔で振り返った。


 これまた先程の黒いリストに名を残した貴族だ。名は……たしか?


「お初にお目にかかります。グラッドストン侯爵家当主ダグラスと申します」


 形式に則り、礼儀正しく頭を下げる男は緑の髪をしていた。初めて見る色に驚いたのと、やっぱり異世界なんだな〜なんて今更ながらの感想を抱く。前世界にはいない色だから、じっくり観察してしまった。それにしても人相が悪い。マンガでよくある「悪人顔」ってコレだろう。


「……グラッドストン侯爵は、オレが帰った方がいい?」


 言葉に隠した意味を感じ取っただろうか。お前はオレがいないと都合がいいのか? そう尋ねた副音声を敏感に感じ取った数人が、青ざめた。


 侯爵の後ろに、腰巾着がいない。こういった口を利く連中は、ほとんどが集団なのだが。ざまぁ系でも、悪役側は複数で囲んでいちゃもん付けるものだろ。釣りあげる意味でも、配下を引き連れてご参加いただきたかった。


 何か口を開きかけたシンに、レイルが耳打ちする。途端に納得した表情でシンは口を噤んだ。


 興味深そうな顔のシフェルと、心配そうなリアム……オレは笑顔を絶やさずに答えを待つ。肩のスノーがごそごそと反対の肩に移動した。敵に近い位置を陣取りたかったらしい。


「いえ、自国でのお立場を確かにしてから、改めて留学なされたらよろしいかと」


 愚考いたしました、なんて続きそうな柔らかな物言いだ。オレは先程のリーゼンフェルト侯爵とは比べ物にならない大物の予感に、わくわくが止まらなかった。


「留学、ですか」


 オレに足元を固めてこいと程よく追い出し、何を企んでいる? 留学という単語から、オレが陛下の友人であることは認めているらしい。ならば……カマをかけてみるか。


「なるほど、その際はグラッドストン侯爵令嬢をご紹介いただけますか?」


「……いえいえ、まだ幼さが残りますゆえご辞退申し上げます」


 ビンゴだ。オレがいない隙に、リアムに娘を宛てがって距離を詰める気だ。意外と正攻法で来たな。もっと後ろ暗いことを考えているかと思ったけど、悪そうな顔の割に真っ当な奴っぽい。

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