107.ある意味願いは叶ってた(2)

 そういわれると……確かにドラゴン退治をしたり、聖獣と契約して戯れたり、皇帝陛下の婚約者(仮)になってる。だが、ここでオレの知る異世界ストーリーと大きく違う点があった。異世界物で国同士の戦は確かにあるが、銃はない! 銃撃戦は絶対に何か違う。


 隣のリアムが楽しそうに答えを待っているので、否定できずに言葉を飲み込んだ。意外だけど、オレはもしかしたら尽くしたい派なのかも。恋人が何か望んだら無理しても叶えてる気がするもん。喜ぶ顔見たら、利用されても気にしなそう……。変な趣味はないと思うけど、リアムが可愛すぎるのがいけない。


「そうだね。リアムと知り合えたから、それだけでいいかな」


 うおー! イケメンに限るセリフがするりと口をついて、シフェルが目を見開いている。そうだよな、こんなガキが何言ってんのって感じだよ。真っ赤になったリアムが両手で顔を覆った姿を誰にも見せたくなくて、思わず抱き寄せてしまった。


 これは下心なしで隠すための行為だ。胸に顔を埋めた彼女の黒髪を梳きながら、ふと自分の行為を振り返ってみる。めちゃくちゃイケメンじゃん?! 異世界に飛ばされても「お前がいるから」と言って恋人を抱き締めるなんて――凄い主役感あふれてる!!


 急に恥ずかしくなって顔が赤くなるのを感じた。どうしよう、オレも顔を隠したいが……ぐいっと彼女を抱き締めた手前、動きづらい。顔を隠してごろごろ転がりたい気分だった。


 互いに照れて動けなくなったオレ達の耳に「……やっぱりキヨは」というひそひそ話が聞こえてくる。皇帝陛下が女性だとバラせない以上、同性好きのレッテルは甘んじて受けよう。それこそがオレなりの愛情表現だ! 意味のわからない使命感を漂わせながらも、耳まで赤くなるのは止められなかった。


「ところで、キヨの結界をどう再現したらいいでしょうかね」


 真剣に悩んでいたシフェルの呟きに、オレとリアムはぱっと離れた。危なかった……手を離すタイミングが分からなくなってた。突き放すのもおかしいし、でも切っ掛けが欲しかったので助かる。


「オレが結界作るところを魔術師の人が見て、解析できないの?」


「解析できる魔術師が少ない」


 立ち直ったリアムが答えてくれる。魔法を使った姿を見て、そのまま魔法陣に描き直してくれるチートはないのか。気づくと周囲の傭兵達がほとんど解散していた。数人を残して全員が官舎へ引き上げる。


 漂う調味料の香りに、空を見上げると夕暮れより少し早かった。


「飯の時間にしては早いな」


 ぼそっと疑問が口をつく。何でもないことのようにシフェルが答えを寄こした。


「今日は祝賀会ですからね」

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