108.こっちは勝手に楽しませてもらおうか(1)

「祝賀会ならご飯作らなくてもいいじゃん……っ」


 豪華なご飯が出てくるんだろ? 続けようとした言葉が喉の奥に引っ掛かった。飲み込み損ねた魚の小骨のように、喉の奥に突き刺さる。


「キヨ」


「言わなくていい。わかった」


 遮ったオレのむっとした口調に反応したヒジリが、のそりと近づいて手に頬ずりした。慰める所作に応えて撫でながら、溜め息を吐く。


 普段ならもっと遅い時間に食事をする彼らが今、食事をする理由――祝賀会があるから、だ。参戦した全員を労うという通知と建前の関係上、傭兵も当然呼ばれる。しかし騎士や指揮官と違い、彼らは重要視されない存在だった。


 戦争中の対応を見ればわかる。騎士が叙勲されたり褒章をもらい、続いて兵士達に労いの食事が振る舞われる。上位貴族と騎士は豪華な広間で晩餐をするんだろう。ならば……傭兵は?


 孤児上がりの犯罪者予備軍もどきと差別されるこの国で、彼らを誰が労うのか。大義名分のために呼びつけるが、食事も満足できる量が振る舞われるはずもなく、すぐに引き上げるのだ。仕事分の報酬は貰えるが、それだって怪しいものだと思う。


 これだけ差別してる国が、傭兵の苦労やケガの面倒までみて判断するか? 


「すみません、キヨ。これがこの国の現状です」


 申し訳なさそうなシフェルへ、オレは首を横に振った。先に現状がわかってよかったと思う。もし祝賀会が終わってから気づいたら、オレは自分が許せなくなっただろう。ドラゴン殺しの英雄として参加する予定だったから、傭兵が外で差別されて帰るのを知らずに楽しんだはずだ。 


 命を懸けて肩を並べて戦った奴らを裏切る前に、気づけて良かった。


「リアム」


「わかった。セイの好きにすればいい」


 彼ら傭兵と一緒に参加する。だからリアムの隣にいけないと謝ろうとしたオレを遮って、黒髪美人は寂しそうに笑った。どちらも叶えられたらいいけれど、それは難しいから……。恋人を選ぶのが普通だと思うけど、オレはそういうところ普通じゃなくてゴメン。


 心の中で謝るオレが噛みしめた唇に、リアムの指が触れた。


「……祝賀会が終わったら、私の部屋に来てくれ」


 一緒に眠る約束をした。約束を守ってくれるなら寂しくても許す。そう顔に書いたリアムの聞き分けの良さに、悔しさや怒りがごちゃまぜになって涙が滲んだ。零れる前に瞬きして誤魔化す。


「わかってる。リアムの部屋に行くよ……約束だもん」

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