108.こっちは勝手に楽しませてもらおうか(2)

 準備があると迎えに来たクリスティーンに連れられて、何度も振り返りながらリアムが戻っていった。その先は豪華な宮殿で、男装した彼女は皇帝陛下として振る舞う時間が始まる。戦う彼女の横にいてやりたい反面、地位がないオレがいても役に立たないことも理解できた。


「シフェル、悪いけど頼むな。リアムを泣かせるなよ」


「当然です。そっくりあなたにお返しします」


 にやりと笑い合って、がしっと手を握って別れた。イケメンで巨乳の嫁さんがいて、地位や金もあるリア充だけど、リアムを守ることにかけては戦友だ。背中を預けられると思う。


 ブロンズ色の髪色が見えなくなる距離で、オレは足元のヒジリに声をかけた。


「ねえ、ヒジリ。相談があるんだけど」


 悪戯好きな子供の目に何を思ったのか。黒豹は長い尻尾を揺らしながら身を起こした。


『主殿のことだ。騒動を起こすのであろう?』


「やだな、そんな言い方。まるでオレがトラブルメーカーみたいじゃん」


『主人は自覚がないのね』


『騒動ばかりではありませんか』


 コウコとスノーが呆れたように反論してくる。影から顔だけ出した彼らを撫でてやり、お願いことを口にした。いつの間にか来ていたブラウが興味深そうに尻尾を大きく揺らす。


『主ぃ、僕も全面協力するよ』


 それぞれが口々に協力を申し出た後、影の中に消えた。驚いた顔で立ち尽くしていたのは、オレの警護係だというサシャとジークだ。知らない間に当番制になったらしく、明日はライアンとユハだとか。常に2人1組でオレの警護をするよう、シフェルから依頼を受けたという。


 アイツ、言わないであれこれ気を使ってくるけど――ツンデレ? いやこういうのは表現が違った気がする。悩みながらも思い出せないまま、官舎に向かって歩き出した。







「はい、注目~っ!」


 パンと大きな音で手を叩いて叫ぶと、官舎の食堂にいた傭兵が一斉に振り返った。ざっと見て、総勢80人前後か。グループに分かれて座ってるが3グループある。


「キヨ、小さくて見えない」


 失礼な発言をしたサシャが肩車をしてくれた。お陰で誰より背が高くなった子供に、傭兵連中は興味深げな眼差しを向ける。


「今日は祝賀会で、知ってるだろうけど……オレは英雄の勲章をもらいました。お祝いなので、一杯美味しいご飯を食べましょう!」


 途端にがっかりした顔をされる。祝賀会で自分達に食べ物が用意されることはないと、経験上身に染みていた。無駄な期待はしないのが平穏に生きていくコツなのだ。


 パンともう一回手を打って、再び声を張り上げた。


「料理が用意されないのは知ってるよ。だからオレらは野営方式でBBQをします!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る