107.ある意味願いは叶ってた(1)
希少なチート知識の源として、異世界人が大切にされる理由は理解した。しかし珍獣に甘んじる気はないので、ここはひとつ! びしっと言っておきたい!!
「オレが望んでた異世界となんか違う」
「どんな世界を望んだのだ?」
きょとんとした顔のリアムに誤解されてないことを確認して、ぼそぼそと説明を始めた。
「オレが思ってたのは、詠唱なしでぽんと魔法が使える人たちがいる世界で……獣耳や尻尾の生えた獣人がいたり、吸血鬼がいたりする。魔物退治しながら魔王討伐を目指す! 勇者になってお姫様をお嫁さんにしてめでたしめでたし。これが王道ストーリーで英雄になれると思ってたわけ」
そこで隣から差し出された麦茶をごくりと飲む。ん? 隣から……麦茶? リアムがいる右側ではなく、左側に膝をついたノアが出してくれたらしい。そうだよな、侍女が皇帝陛下に麦茶なんて出さない。と考える隣で、リアムも受け取って飲んでいた。
当然のように手を出されて拒めなかったノアの表情が強張っている。
「ちょっ! リアム、麦茶飲んでいいの?」
「ダメなのか?」
逆に質問されてしまい、ダメじゃないと思うけど庶民の飲み物だぞと首をかしげる。少し離れた位置で部下に指示を出していたシフェルが「ああ、問題ありません。すでにキヨが毒見しましたから」と言われた。確かに考えるより先に飲んじゃったけどね。
「問題ないってさ」
嬉しそうに「香りがいい」と庶民のお茶を飲む皇帝陛下に、傭兵達はざわめいた。この世界で最初に麦茶を飲んだ時に雑談で聞いたが、傭兵や兵士が現場で水分補給に飲む程度のお茶なので価格はお手頃。つまり高価な紅茶を毎日飲める階級の人が口にする飲み物じゃない。
親しみやすくていいんじゃないか? 本人が気にしてないし、何より好奇心旺盛で楽しそうだもんな。傭兵の宿舎の前で麦茶を飲む最高権力者――他国の奴が見たら卒倒しそうな光景だ。
威厳がないかと言えば、そうでもない。まるで最上級の茶葉を味わうように丁寧に飲んでる姿は、やはり育ちの良さが滲んでいた。
「セイはほとんど叶えているぞ」
先ほどの話に戻されて、今度はオレがきょとんとしてしまった。
「セイは詠唱無しで魔法をぽんと使うし、獣耳や尻尾のある者もこの世界にいる。属性が強く出た者の中には、犬や猫に変化できる者もいると聞く。キュウケツキとやらは知らぬが、ドラゴン殺しで魔物退治をしただろう? 侵略を試みる他国の王は余から見れば魔王と同じ。セイが追い払ってくれた。最後の条件も満たして英雄になれるゆえ、ほぼすべて叶えた」
そういわれると……確かにドラゴン退治をしたり、聖獣と契約して戯れたり、皇帝陛下の婚約者(仮)になってる。だが、ここでオレの知る異世界ストーリーと大きく違う点があった。異世界物で国同士の戦は確かにあるが、銃はない! 銃撃戦は絶対に何か違う。
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