106.結界に魔法陣なんて使うの?(3)

 きょとんとした顔のリアムが「仲がいい」と羨ましそうに呟く。しょんぼりした彼女を慰めるため、黒髪を撫でながら、オレは互いの疑問を擦り合わせることにした。


「魔法陣なんて知らないぞ」


「では、どうやって魔法を発動するのですか」


 嘘おっしゃいと言わんばかりのシフェルに、魔法陣も詠唱もなしで炎を作って見せる。凝視する彼の様子に違和感を覚えた。みんな、どうやって魔法使ってるの?


「え? こう……イメージしたら出来るじゃん」


「結界も?」


「うん」


 そこでシフェルが沈黙した。黙って聞いていた傭兵達がざわつく。


「キヨは規格外だからな」


「異世界人は魔法陣がいらないのか」


「発動が早くて便利だな」


 ……またオレがおかしい設定ですか。何が違うのか説明してくれないと、またやらかすぞ?


「魔術師が魔法陣を使っていたのは、知っていますよね」


 シフェルの確認に頷く。確かに転移魔法陣は使ってたけど、入り口と出口に同じ魔法陣が必要だからだと思っていた。結界なんて勢いで張ってたぞ。


 傭兵は半分ほどが中に戻っていく。きっと夕方になったので食事当番だろう。だって、残念そうにしながらノアが戻っていく。オカンは食事作る際の司令塔だから、危険がなければオレより当番を優先して欲しい。じゃないと空腹の奴らにオレが責められそう。


 また伸びた髪をぐしゃぐしゃかき回しながら、溜め息を吐いた。


「結界の魔法陣なんて見たことないぞ?」


「「「「「え?」」」」」


 口を揃えた面々の中に、恋人リアムも含まれていたことが地味にショックだ。


「発動した原理がわかりません」


「オレはお前らの発動条件が不思議。魔法使うときにイチイチ魔法陣見てたか?」


 風の魔法を使って野菜を刻んだ奴は、別に魔法陣を眺めてから使わなかったぞ。そんなニュアンスで不思議そうにすると、シフェルが「これは一般常識です」と言いながら、細かく説明してくれた。


「魔法陣は覚えるのですよ。暗記はわかりますか?」


「うん」


「暗記して魔法陣の模様を焼き付けます。そのため簡単な魔法は、思い浮かべるだけで使えるのです。キヨが違う方法で発動したとしたら、数千年ぶりの大革命になりますよ」


「セイはいつも余の予想を超えてくるな!」


 目をきらきらさせて喜ぶ皇帝陛下の賛辞に、周囲の騎士から尊敬の目が向けられる。傭兵は「ボスがまたやらかした」みたいな眼差しで、温度差がすごい。


「異世界人が重宝される原因がわかった」


 こういう無自覚で余計なことをするから、世界で追いかけまわして捕獲しようとするわけか。これを狙ってカミサマに放り込まれたんだろう。いわゆる技術革命の切っ掛けとして――理解は出来るが納得は出来ない。カミサマ、お願い。一度でいいから殴らせてください!!

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