106.結界に魔法陣なんて使うの?(2)
『主殿?』
「音を防ぐの忘れた」
失敗したとぼやきながら、顔を上げるとシフェルの後ろを走ってくるリアムが見えた。護衛の手を振り切ったらしく、後ろの騎士も必死に追いかけてくる。
「リアム?」
声をかけてシフェルに手を上げる。それから結界を解除して歩き出した。駆け寄る彼女を受け止めると、息を切らしながら手で顔や肩をチェックされる。撫でまわす手が擽ったいが、彼女が心配してくれたのもわかるので、大人しくしていた。
「無事だよ」
「うん」
安心したリアムが離れると、眉尻を下げたシフェルが「やりすぎましたかね」と呟いた。多少は反省して欲しいが、しおらしいと気持ち悪い。
芝の上にシートを出して座り、隣にリアムを座らせた。手招きするとシフェルも少し離れた場所に膝をつく。護衛の騎士は守るようにリアムの後ろに立っていた。
「悪いと思うなら、オレの要望を叶えるよう努力してくれ」
茶化す口調で無理を押し付ける。彼の独断で決められないと知っているから、わざと明るい口調で言い放った。ついでに「頼りにしてる」と肩を叩いてやる。嫌そうにオレの手を払ったシフェルが、溜め息を吐いた。
「可能な範囲ですよ」
努力してくれるらしい。言ってみるものだ。夕暮れが近づいて肌寒いので、上着を取り出してリアムの肩にかけた。不敬だと怒られるかと思ったが、シフェルも護衛の騎士も何も言わない。嬉しそうなリアムが「ありがとう」と礼を言って微笑んだ。
嫁が可愛すぎて、襲いそうです。抱き寄せたい手をわきわき動かしながら我慢したオレだが、その手をヒジリに噛まれた。
「痛っ」
「仲良しだな」
リアム、よく見てくれ。めっちゃ牙が食い込んでるからな? 噛む習性があるのはともかく、事前に一言断って欲しいものだ。もちろん逃げるけどな。噛んだ後は治療タイムだった。ぺろぺろ舐めまわして唾液でびっしょりになる。何の罰ゲームなんだか。
「結界は納得した?」
「そうですね。確かに銃弾を防いでいます。実用性があるので、あとで魔法陣を提出してください」
「うん? 魔法陣?」
「え? 当然でしょう」
シフェルとオレの間に風が吹き抜ける。ついでに沈黙も落ちる。互いを「何言ってんだ、コイツ」って目でじっくり観察したあと、同時に口を開いた。
「「おかしなこと言う(のですね)」」
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