134.秘密の裏には何もなかった(1)

 王族用の控室は広くて立派な家具が並んでいた。元庶民のオレとしては、たじろぐところなのだが……兄シンはソファに陣取り、横を叩いてオレを呼ぶ。一人掛けのソファがあるのに、離れた場所の長椅子に寝転がるレイルは「皺にするな」とシンに注意を受けた。


「へえへえ」


 文句たらたらの返事で、服を直して……また寝転がる。ひとつ欠伸をして腕を枕に寝ようとするレイルに、オレは時間を確認してから声をかけた。


「レイルは北の王族なのに、どうして情報屋してたんだ?」


 普通に考えて、王族は特権階級だ。底辺で差別される傭兵に分類されることはない。


「うーん。簡単に説明するから、変な同情するなよ」


「わかった」


 同情する気はないが、事情は知っておきたい。変な横槍で嘘吹きこまれても困るし。今後の信頼関係に必要だと思うんだ。ヒジリの背から、兄の隣に移動しながら頷いた。


「いいのか? レイル」


「しょうがねえだろ。一応これでも親戚になるんだから」


 服の胸元に隠していた煙草を取り出し、レイルは慣れた所作で火をつけた。指先で火をつけるの、魔法だけどカッコいいな。煙草は好きじゃないが、今の動きは憧れる。足元でヒジリが丸くなった。その上に足を置くと、足首を噛まれる。


「いてっ」


 すぐに舐めて癒されるが、なんだろう……このドM調教みたいな状況。噛まれるのは誉れだと言われたが、絶対に嘘だよな。異世界人を揶揄っただけだと言ってくれ。ジト目で見ているオレの視線をスルーして、ヒジリは足を離して眠り始める。


 黒い艶がある毛皮の上に、白いチビドラゴンと赤いミニチュア龍が出てきた。一緒に夜会に出る意思表示らしい。ブラウは相変わらずマイペースで、行方不明だった。


「おれは王弟の子で、ほかに妹が1人いた。母親は3つ下の妹を生んですぐに死んだから、顔もぼんやりとしか覚えてない。北の王族は荒れてただろ? おれが8歳の頃、父親が貴族達に担ぎ出され旗印にされたんだ。国王である伯父に処刑され、その際におれは幽閉された」


 他人の事情を語る冷めた口調が、どこか切ない。母を失い、父が処刑され、自分は幽閉された。あれ? 妹は……。


「妹はまだ5歳だったが……運が悪いことに流行り病で死んだらしい」


 これは幽閉されて人づてに聞いたのだろう。悲しそうに目を伏せたシンは、隣に座ったオレの髪を撫でる。逆の手でオレの肩をしっかり掴んでいた。痛いほどじゃないが、固定するように掴むのは……きっと振り向かせたくないんだ。レイルの顔を見せたくないのだと思う。


 泣いてる感じじゃない、乾いた声は耳じゃなく心に突き刺さった。

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