134.秘密の裏には何もなかった(2)

 反逆の旗頭にされたなら、父親の処刑は仕方ない。その息子も担ぎ出されないように、国王は手を打ったのだろう。幽閉という形で、レイルの命を守ったのだ。恨まれることは承知の上で、それでも親族を生かそうとした。レイルも一緒に処刑した方が楽なのに、国王は殺さない選択を貫いたのだ。


「孤児になったおれは、いろいろあって傭兵になった。そこで差別に抗わず受け入れる連中に嫌気がさして……情報屋として独立したってワケだ」


 省かれた「いろいろあって」の部分で、シンの手に力が入った。見上げた兄の顔は青ざめていて、多分だけど……幽閉先から逃がしたのはシンなんじゃないか? そう直感した。


 また貴族に利用されて、従兄弟が死ぬのを見たくないから逃がしたのに、その先で彼が苦労してすさんでいったのを知り、シンは後悔したんだろう。


 でもさ、多分だけど……本当に勝手な想像だけど。国王が命じて幽閉した罪人が、そう簡単に逃げられるわけがない。逃がそうとした息子を、国王はわざと見逃した、そんな気がする。貴族の手前、許すことは出来ないが見逃すことは出来た。そう思うと、会う前から父王に好印象を抱きそうだ。


「わかった。話してくれてありがとう」


 情報屋として独立したレイルが成功したのも、陰からあれこれ支援した人がいたんじゃないか。彼の努力はもちろんだけど、孤児の傭兵なんて最底辺からのし上がるには、何らかのコネや繋がりがあったはず。王族の秘密だけでも、十分商品価値があるだろう。


 したたかに生き延びた友人は、吸い終えた煙草を灰皿に押し付けた。少し離れた場所で居心地悪そうにするシンは、ちらちらとレイルに視線を向ける。何か言いたくて、でも言葉を飲み込む感じ。


「シン……お兄ちゃん、レイルに話があるんじゃない?」


 名を呼んだら悲しそうな顔で振り向かれたので、お兄ちゃんと呼んでおく。大きく頷いたシンは、ようやく切っ掛けを掴んだらしい。大きく息を吸って口を開いた。


「父上を許して欲しい、とは言えないが……私はお前の味方でいたい」


 味方でいると言い切らない誠実さに、オレは頬を緩めた。王族であり、これから王位につく人間だから、親の代と同じ事件が起きたらレイルを断罪しなくてはならない。それはオレが相手でも同じだった。反逆の証拠が出てしまったら、国王として国を守るために断罪するのが役目だ。


 だが信じたいと思うし、味方でいたいと口にするのは精一杯の歩み寄りだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る