80.不名誉な二つ名(3)

「いや、歩く」


『だったら、私に乗ってく?』


「なんで?」


 どうして聖獣が2匹揃って背に乗せようとするのか。首をかしげたオレの横に追いついたレイルが、ぐいっと肩を掴んだ。覗き込んだあと、額に手を当てる。


「おまえ、熱があるぞ」


「いや、もうそのネタ飽きたから」


 笑いながら両手を振って、ないないと示す。怠くもないし、暑くもない。いい加減、魔力酔いもないと否定して手を振り払った。すたすた歩くオレの横に、ジャックやシフェルも集まってくる。


「熱がありますね」


「間違いない」


 なぜか言い切られてしまった。そのうえ、無理やりヒジリに乗せようとする。彼らの強引な態度にイライラした。むっとして何か言おうと息を吸い込んだところで、目の前がぐらりと揺れる。


「あ……地震?」


 足元が揺れたんじゃなく、自分が揺れたのだと気づいたときは、ジャックに抱っこされていた。縦抱っこされた子供がじたばた暴れても、大柄な男は気にしない。誘拐犯みたいな顔してるくせに、慣れた手つきでぽんぽん背中を叩かれた。


「具合が悪いときは無理するな。戦闘中じゃないんだ」


 それを言われると、そうなんだけど。確かに戦闘前だからって熱があるのに無理したことはあるが、コイツ意外と気にしてたのか? 唸りながら葛藤していると、げらげら笑うレイルに髪をぐしゃぐしゃにされた。


「いいから寝ておけ、戦が終われば指揮官なんざ用なしだろ」


 乱れた髪を手櫛で整えながら頷いた。すると突然、ジークが声を張り上げる。


「よし! 準備したやつ持ってこい」


「「「おう」」」


 駆け寄った連中が広げた毛布の上に転がされ、あっという間に簀巻き状態にされた。両手が外に出て自由なのが、まあ救いではあるが。そのまま簀巻きのオレをヒジリの上に括り付けられる。手際の良さに、抵抗する余裕はなかった。


「なあ、これって簀巻きじゃね?」


「「「簀巻きだぞ」」」


 口を揃えて返す言葉じゃないだろ。一応ボスなんだし、簀巻きは酷いと思うわけだ。で、素直に抗議してみる。


「ボスなのに簀巻きか?」


「ボスだから簀巻きなんだよ」


 解せぬ。世間のボスは、勝ち戦に簀巻きで帰還したりしない。こう馬にまたがって意気揚々と、行進するものだろう。気にした様子がないヒジリはすたすた歩きだし、ちょっと不安定だが落ちそうな感じはない。揺られていると、眠くなってきた。


「キヨ、お前の二つ名が登録されたぞ」


「……何?」


 にやにや笑うレイルの顔に、嫌な予感だけが募る。絶対にまともな呼び名じゃない。確信するくらいには付き合いが出来てきた。つうか、二つ名って登録されるものなんだ?


「死神だとさ」


「はあ? 誰だ、そんな不名誉な名称で登録した奴っ!」


「「「さあ?」」」


『恰好いいではないか、主殿』


『ぷっ、くくっ。オレを見た者はみんな死んじまうぞぉ……って?』


 誰が三つ編みロボット操縦者だ! ブラウ、顔を見せたら絶対に殴る。


 簀巻きから出た手で、自由になるための結び目を必死に探した。

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